84「円ちゃんと向き合うんじゃね?」①
「はははは、そんなびっくりせんでも。ねえ?」
「裏京都だって異世界みたいなもんだ。晴明と俺が異世界に召喚された経験を生かして、玉藻前殿と酒呑童子とかと協力して作ったんだぜ」
「懐かしいねぇ。にしても……僕ら以外に異世界でやんちゃした子がいるとは知っとったけど……」
安倍晴明は夏樹と祐介を興味深そうに見た。
「ボクとはまた違う感じの子やねぇ」
「ど、どどどど、どうしよう、ビッグネーム中のビッグネームだけど、なんか怪しい感じの美形だから、今のうちに斬っておけって思っちゃう!」
糸目で、白髪。異世界経験者で、ビッグネームの安倍晴明に夏樹は胡散臭さを覚えていた。
「ええじゃろう。さくっとやっとけさくっと!」
「嫌やなぁ、僕もどぅーまんもいい歳ですからぁ。悪いことなんてしませんって、小梅先輩」
「小梅先輩!? 小梅ちゃんってパイセンなの!?」
「パイセンもパイセンじゃ! 京都にクソ親父と遊びに行った時に、居座ってやったんじゃぞ!」
どや顔をする小梅に、安倍晴明は悲しそうな顔をした。
「あの時は地獄やった。当時の日本は今のように裕福な生活はできへんのよ。だというのに、小梅先輩はあれ買ってこい、これかってこいと……」
「何度も襲撃してやったが、全部返り討ちになったぜ」
蘆屋道満まで悲しい顔をする。
「ボクらが強くなったんは小梅先輩をぎゃふんと言わせるためや」
「小梅先輩の無茶振りに比べたら、魑魅魍魎や異世界の魔族や勇者も敵じゃなかったぜ!」
「小梅ちゃん、どんだけやりたい放題だったの!?」
「と、当時は、その、天使は崇め奉られるのが当たり前だったんじゃ。つい」
「つい!?」
かつての小梅は傍若無人のようだった。
小梅とビッグネームの過去に驚いている夏樹は、さらに安倍晴明の発言によって驚かされることとなる。
「……始め見た時、小梅先輩やて思わんかったわ。縦ロールやめたん?」
「小梅ちゃん、縦ロールってたの!?」
「やめい! 乙女の秘密を暴露すな! そして深追いするでない!」
夏樹は、小梅が縦ロールとなりドレスを身につけ、異世界ものに出てくる悪役令嬢の如く振る舞う姿を想像した。
とても簡単に想像できた。
そして、意外と似合っていた。
「……小梅ちゃんが縦ロールってたのはさておくとして、茨木童子どうする? アイテムボックス入れちゃう?」
「あー、なっちゃん。俺としては、葬いてえんだ」
「うーん。じゃあ、お墓に入れて、お墓ごと入れる?」
「そういう問題じゃないと思うな、おっちゃん!」
話を茨木童子に戻す。
夏樹は茨木童子を雑に扱うつもりはないが、方法がないのなら仕方がないと割り切っていた。
しかし、酒呑童子的には難しいようだ。
「しゃーない。ボクらで結界を張ったる」
「俺もかよ。まあ、いいけどさ。つーか、おい、七森千手、煙草が無事ならくれ」
蘆屋道満が千手から煙草を受け取ると、電子煙草にさして吸う。
ふう、と薄い煙を吐き出すと、「煙草の礼だ」と言って千手に近づき顔を掴んだ。
「唐突なアイアンクロー!?」
夏樹が叫ぶ。
「ちげえよ! じっとしてろ、少し痛いぞ」
「ぐっ、あっ!」
「よし。お前の魔眼が制御できるように霊力の流れを整えてやった。いきなり十全使えないだろうが、いずれ使いこなせるぞ」
「――蘆屋道満様、心から感謝します」
「おう」
唐突に、魔眼の制御に苦しんでいた千手の憂いが晴らされ、彼は深々と頭を下げた。
千手が魔眼を制御できるようになれば、今以上に強くなるだろう。
「なんかどぅーまんだけ好感度あげとるのもなんか癪やし、えい!」
安倍晴明が夏樹に向かって指を動かし何かを描いた。
「――っ」
夏樹の中で何かが無理やり動かされる感覚が生まれた。
痛みを伴うが、痛みの果てになにか力がある。
まるで成長痛のような感覚だ。
「キミ、まだ身体が成長しきっとらんのに無茶しすぎやで。身体が歪んどったから、整えたったよ」
「――ありがとうございます! なるほど、これがサウナでいうところの整うってことか」
「ち、ちゃうけど、キミがそれでええならええよ。面白い子やねぇ」
茨木童子と全力をこえて戦ったせいで覚えていた疲労、痛み、不快感も、少しだけマシになった。
感覚的に、二日ほどゆっくりしていればいいだろう。
「なんかいろいろありがとうございました。安倍晴明様、蘆屋道満様」
「なんや、他人行儀やねぇ。せーめーでええよ」
「俺も道満でいいぞ。それに……まあ、今はいいさ。それよりも、ほら、眠り姫――ではないが、安倍円のお目覚めだ。話をしてやれ」
蘆屋道満が促すと、音叉やきららたちに見守られている円がうっすら目を開けようとしていた。
「――円ちゃん!」
せーめーさんとどーまんさんは割とやりたい放題派です。
そんなふたりも小梅先輩には勝てないのです。




