間話「ぜっくんが見ているんじゃね?」
「――失敗ですかっ! いやはや、由良夏樹ことなっちゃんの完全なる血統である血をちゅっちゅした茨木童子ならばっ、と思ったのですが……とっても残念っ!」
京都上空に、絶望の神ことぜっくんがいた。
燕尾服を着た彼の目には、由良夏樹に敗北した茨木童子が写っている。
「まったく、逸材だと思って神格を授けたというのに、まさか自分のためではなく男との間に神としての子を産もうとするとは……ぜっくんもびっくりですねっ! しかも、その力を結局食って使おうとしているのですから、なんというか、鬼ですねぇ!」
茨木童子の強さは、神々に匹敵していた。
もともと鬼としての知名度はもちろん、完全なる血統を啜ったことでの強化、その後、上質な人間を食い続けたことで力は相当のものだった。
そこでぜっくんは茨木童子をひと押しした。
鬼に紛れて、茨木童子に近づき細工したのだ。
結果、酒呑童子を超える鬼が誕生したのだが、制御不能だった。
「まさか絶望の神である私が絶望させられるとは思いませんでした。やはり異世界転生して福の神になるしかないっ!」
ぜっくんの想定外だったことは、茨木童子が愛に狂ったことだ。
その愛は独善的で、愛の女神こと愛ちゃんが興味を微塵も示さないほどだ。
ぜっくんは投資には失敗がつきものと、割り切って茨木童子を見限った。
だが、夏樹と戦うことを知り、茨木童子の『仕上がり』と異世界の勇者の力を見るために、京都までわざわざやってきたのだ。
「――ふむふむ。察するに、異世界から持ち帰った聖剣神鳴の剣は神の名前ではないっ! 一時的な名を与えることで一部の力を使用しているので、しょう! そして、問題はっ、海の力ぁ!」
くつくつと笑いながら、くるくるとその場で回り出す。
「――マーベラス! 素晴らしい! 絶望の神が希望を持つほどですっ! この世界ではないどこかの世界の海を呼ぶだと!? そんなことは神でも不可能だっ、だっ、だっ! もうびっくりして笑いが止まりません! ぜーぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜっぜ!」
「……テンションの高い神じゃのう。新たな神々を名乗るそなたらは、みんなこうなのかえ?」
ぜっくんの背後から、女性の声が響く。
振り返ったぜっくんは、不思議そうに首を傾げた。
「玉藻前殿……なぜサイズの小さい巫女服を身につけているのだろうか?」
ぜっくんの背後にいたのは、夏樹の血によってグラマラスな肉体になってしまった玉藻前だった。
「そなたの疑問はそこか!? もっと他にないのか!?」
「……私的には、狐耳に巫女服は……幼女がいいのだがっ!」
「どうでもいいわい!」
玉藻前が叫ぶと、ぜっくんを囲うように狐火が現れた。
ひとつひとつの炎が、下級の神ならば存在そのものを消してしまうほどの妖力を持っている。
ぜっくんを滅ぼすことはできないが、「痛い目」を見せることくらいはできるだろう。
「ほう。玉藻前は絶望の神との戦いをお望みか!?」
「いや、なに。可愛らしい少年が茨木童子と真正面から戦い打ち取ったのじゃ。無粋なことをさせたくない、そう思うのは自然なことじゃよ」
「……ふむ。確かに無粋はよくないっ!」
「妾も酒呑童子も、それこそ茨木童子も、貴様ら新たな神々の計画などどうでもよいのじゃ。神も魔も妖怪も、その時代とその時代に生きる人々によって変わっていくものじゃ。そなたたちのように新たな神話を作ろうなど……つまらん」
「言ってくれる、玉藻前。月読命のように目の色を変え追いかけて殺しにくる神のほうがよほど好ましいさっ!」
「……それはそなたが月読殿に「影の薄い神として新たな神話に参加しないか?」などと煽るからじゃ」
「……最高の賛辞だったのだが、ふむ、古き神は気難しい」
「お前の感性のほうが難しいのじゃ!」
ぜっくんは「ふうっ」と息を吹きかけると、取り囲む狐火を吹き消した。
「なんじゃ? もう行くのか?」
「私の目的は、なっちゃんの力を見ることですからっ!」
「馴れ馴れしいのう。それで、お眼鏡にかなったかのう?」
「それはもう。しかし! 彼はまだ力を全て出していない! 私はそれが見たい! 見て素晴らしいと叫び、絶望したいのです!」
「お、おう」
急に叫び出したぜっくんに「情緒不安定じゃ」と玉藻前が怯えた。
「私も玉藻前殿や酒呑童子殿とやり合いたくありませんので、今日はこれにて」
「待つんじゃ」
「――なにか?」
「愛の女神に金を返すように言っておいてくれんか?」
「なぜ?」
「いや、なに。この間、京都にひょっこり遊びにきたんじゃが、居酒屋で飲みすぎたんでタクシー代を貸してやったんじゃ」
「愛ちゃん友好関係広すぎっ!」
――ぜっくんが見てる。
ちなみにぜっくんは絶望させる方も、絶望する方も両方いけます!




