85「円ちゃんと向き合うんじゃね?」②
安倍円にとって、大切な親友を失った経験は、言葉にできないほどの衝撃だった。
目の前で鬼に食われたのだ。
助けようとしても、手も足も出ず、自分の弱さに泣いた。
亡き親友の仇を取るために、亡き親友に誇れるように、強くなろうと決めたのだ。
嫌いだった訓練もした。
鬼を倒すために、弱い妖怪を、時には人間を踏みつけた。
かつて自分から大切な人を奪った鬼と同じようなことをしている感覚に、不快感が湧き上がってくる。
だが、不思議とその気持ちを忘れてしまうのだ。
何度後悔しても、何度繰り返しても、すぐに忘れてしまう。
親友の復讐のためだと言い聞かせ、気づけば当たり前になっていた。
復讐のためなら仕方がない。
大好きな親友なら絶対言わないはずの言葉を行動理由にしていた。
家族や友人は案じてくれたが、時にその気持ちが鬱陶しいとさえ感じてしまうこともある。
その都度、身体の奥底で自分ではない何かが叫ぶのだ。
「――殺してしまえ」
と。
家族を友人を、殺せというのだ。
そんなことをする理由なんてひとつもないのに、だ。
円は時々湧き上がってくる理解できない衝動を抑えながら、強さを求めた。
十代半ばとなり、規格外な兄に及ばずともそれなりに強くなった自負がある。
――だが、不思議なことに、その頃になると酒呑童子を殺すことを生き甲斐にしていた。
親友を襲ったのは鬼だが酒呑童子ではない。
なのに、なぜだ。その理由が説明できない。
ずっと心が渇いていた。
妖怪たちを蹂躙している時だけが潤った。
すぐに心がまた乾く。
まるで身体の中に自分ではない別の誰かがいるみたいだった。
――しかし、もう乾いていない。
不思議なほど心が穏やかだ。
狂おしい殺意も、抑えるたびに苦しくなる破壊衝動も、すべて消え去っていた。
「――円ちゃん!」
とても懐かしい声が、懐かしい呼び方をしてくれた。
――ああ、なんで気づかんかったんやろ。
あれだけ会いたかったのに。
ずっと会いたかったのに。
夢の中で何度も出てきた、夏の日の短い出会い。
大切な親友は生きていた。
大好きな子は生きていた。
そして、また会えた。
――円にとって、それだけで涙が溢れるほど嬉しかった。
円くん自身が気づかなかった呪いも綺麗さっぱり。
ようやくきちんと向き合える時間です!




