80「海の勇者の力じゃね?」②
「はぁ、はぁ……なかなか死なねえな」
「死んでたまるものですかっ!」
茨木童子は満身創痍だった。
水の龍に、いいや、海に斬られ、抉られ、引きちぎられ、蹂躙されたのだ。
聖剣と違って破壊を宿していないので再生はできる。
だが、再生すれば同じことの始まりだ。
茨木童子の力は再生するごとに落ちていき、すでに大きく弱体化していた。
対して夏樹は片腕だけで海水を操っているので、肉体的な疲労は見えない。
――実際は、規格外の魔力が尽きかけるほど内面は大きく疲弊しているのだが。
「もう終わりにしよう、茨木童子。俺は飽きたよ」
「――なんだ、と」
「なにかあればしののんがどうのこうのとしか言わないあんたは強くても、つまらない女だ。戦ってワクワクもしないし、ときめきもしない。痛いばっかりで、もう嫌だ」
「……私を、つまらない女ですって?」
「俺も限界はある。この力だって、あと五分も使えない。だけど、その前にあんたは死ぬんだ」
「生意気なことを」
「たかが鬼が海に勝てるはずがないんだよ」
嵐の海のように唸っていた海水が、ぴたり、と静かになった。
ちゃぷ、と水音を立てて海水が夏樹の右手に集まってくる。
「ふざ、けるな! そんなことが許されるはずがない! 海を、海を剣にするだと!?」
「するさ、俺は海の勇者だ」
「ふざけるな、それは人に許された範疇ではない! そんなこと人ができるわけがない! ――お前は何者だ!」
夏樹を介して生まれた海は全て彼の手の中に集まった。
どれほどの海水が圧縮されたのか不明な剣がその手にあった。
「何者かって? 知らないなら教えてやるよ。俺は聖剣の勇者として異世界に召喚された海の勇者にして、河童の守護聖人にして、宇宙の平和を守る愛の戦士! ――ギャラクシー河童勇者DXだ!」
「おのれっ、その名前、絶対に忘れない! ギャラクシー河童勇者DX! 何度生まれ変わっても、貴様のことは必ず!」
夏樹は海が圧縮された剣を、もう動けない茨木童子にゆっくり振り下ろした。
「母なる海よ、もう泣かないで。――静寂の海刃」
迎え打つ血の刀ごと茨木童子を斜めに両断したのだった。
「――私は、ただ、愛されたかっただけなのに」
「……なら、もっとしののんを愛せばよかったのに」
「私だけを愛して、見てくれる、たったひとりの人が欲しかっただけなのに」
その言葉を残し、茨木童子が濡れた地面に上半身を倒した。
あっさりに見えるかもしれませんが、くっそ強い力とくっそ強い力のぶつかり合いでした。
夏樹たちを覆う結界の外では。
安倍晴明氏「ぎゃぁあああああああああああああああああああ! 結界壊れてまうぅううううううううううううううううううううううううう!」
蘆屋道満氏「ふざけんなぁあああああああああああああああああ! なんだこの力はぁああああああああああああああああああああああああ! 春子ぉおおおおおおおおおおおおおおお! どういう育てからしたらこんな強いガキが育つんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
安倍晴明氏「え? 春子はんと連絡とったん?」
蘆屋道満氏「真顔になるな! いいから、守りに徹しろ、ボケぇええええええええええええええ!」
道満さんは苦労人。間違いないっすね。




