プロローグ「イベントなかったんじゃね?」
――不思議なことに、ゴールデンウィークまでの三日間イベントが全く起きなかった。
あまりもの異常事態に、由良夏樹は毎日そわそわしてしまい、挙げ句の果てには預言者の如く叫び始めた。
「きっと大きなことが起きる! 今までのイベントなど比ではないほどのイベントが! 起きるのだ! ああ、ゴールデンウィークが怖い! 怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!」
「おどれが一番怖いんじゃ!」
茶の間で新聞紙に書いた魔法陣を前に、手を合わせて河童大神様に拝んでいた夏樹に小梅・ルシファーが全力で踵落としをした。
「痛いっ! 痛いよ、小梅ちゃん!」
「怖いを通り越して痛々しいのう! なーんで明日からゴールデンウィークだっちゅーのにそんな怯えておるんじゃ!」
「だって、だって! ここ三日間イベントが何も起きなかったんだよ! イベントさんに調教された俺は、もう禁断症状が出そうなんだ!」
「なーんで調教済みなんじゃ! あと、イベントさんって誰じゃぁあああああああああああああ!」
「あの、ちょっといいっすか?」
恐る恐る手を上げたのは、煎餅を食べていた青山銀子だ。
「はい、どうぞ! 銀子さん!」
「どうもっす。あの、夏樹くんはイベントがなかったって言ったっすけど、たくさんありましたよね!? 一日三度イベントあったっすよね!?」
「……そうじゃのう。義政先生と会いたいちゅう、女の子とのセッティングを組んだらまるでそれを狙ったように新たな神々の下っ端が襲撃してきたのう」
「そのせいでGW中に延期になってしまったじゃないっすか!」
「他にも、一登が同棲しているっちゅう噂が流れて、なぜか夏樹が女子に呼び出されてなんとかしろと無茶振りされて泣いて帰ってきたのう」
「号泣してたっすねぇ」
「今日なんぞ、祐介がふんどし姿で帰宅したとか意味のわからん状況になっておって大変じゃったじゃろうて!」
「甘いな、小梅ちゃん、銀子さん。俺にとって、その程度のことはイベントじゃないんだよ」
きりっ、とした顔をする夏樹に小梅と銀子は泣いた。
本当にイベントに調教済みだった。
小梅も銀子も三日間、本当に大変だったというのに、夏樹は平然としている。
もう普通のイベントでは何も感じなくなっているのかもしれない。
「あのね、言っておくけど。俺はその後に夢の中で風の神さんに早く俺の中から出してくれって毎日苦情と常夏のビーチで追いかけっこしたり、ビーチフラッグしたり、お相撲したり、ビーチバレーしたり、釣りしたりって勝負ばかりで大変だったんだからね!」
「遊んどるじゃないか!」
「普通に、エンジョイしているじゃないっすか!」
「ちょっとずつホラーさん、じゃなくて海の神さんが起きてから近づいてきて、ビーチバレーは一緒にできたよ! でも、まだ慣れてくれなくて喋ったと思ったら「怨怨怨」とか言い出すから怖かったよ」
「ちゃんとイベントじゃのう! イベントしとるのう!」
夏樹はイベントしていないと言ったが、十分すぎるほどイベントをしていた。
常人であれば倒れるほど濃い日々をちゃんと送っていた。
「それでね、イベントがないから珍しく考える時間があってさ。せっかく高校に殴り込みに行くんだから、決め台詞を考えたんだ」
「……夏樹……殴り込みじゃないじゃろうて」
「見学っすよ!」
「多分ね、俺に突っかかってくる生徒が絶対いるよ! いなかったらなんでもするよ!」
「――なんでもじゃと」
「――なんでもっすか」
言い切った夏樹に、小梅と銀子がくわっと目を見開く。
「してやるとも! 河童の守護聖人にして、河童大神さまの御使であるギャラクシー勇者様だもん!」
「よし。言質はとったんじゃ」
「ふっふっふ、子供では想像できないえぐいことをしてやるっす!」
「この婦警、邪悪じゃのう! まあええ、それで、決め台詞を一応聞いておいてやるんじゃ」
「よくぞ聞いてくれました!」
夏樹は立ち上がると、なぜか髪をかき上げてから指をびしっと指した。
「――お前の尻子玉の数を数えな!」




