100「月読先生とお話じゃね?」①
特にこれといった学園イベントがないまま放課後を迎えた夏樹は、帰り支度をして、クラスメイトに手を振って廊下を出た。
「――さあ、夏樹くん。職員室に行きましょう」
「なんでぇ?」
担任の月読に、夏樹は捕まってしまった。
「あの、先生。ちゃんと言うことがあるのなら帰りのホームルームでお願いします」
「君だけに言いたいことがあります」
「……教師と生徒の恋愛って、俺は気にしませんけど、世間がちょっと許してくれないんじゃないかなって思うんです」
「……要件はわかっているでしょう。そういう余計なことを言うから、話が長くなってしまい……いえ、今回は私が頼む立場ですので小言はやめておきます。どうか、もう一度、霊能学校への見学についてきちんとお話をさせていただけませんか?」
いつものノリで反応してくれない月読は真剣だった。
何かまずいことが起きたのか、と夏樹も態度を改めた。
「――はい」
「ありがとうございます。では、職員室へ」
促されて一緒に職員室に向かった。
職員室の奥の会議スペースに、よく見知った顔がいた。
一登、杏、都、すみれ、そして萌葱だ。
夏樹が椅子に座ると、月読が話を始めた。
「夏樹くんから聞いているかもしれませんが、ゴールデンウィークに「院」が運営する学校、つまり霊能力者を育成する学校への見学の誘いが来ました」
全員が頷いた。
「夏樹くんに関しては、水無月家、七森家とかかわっていることや、霊能関係者から話が「院」にも伝わっています。我が弟素戔嗚がいらぬちょっかいを出さないように圧をかけてくれましたが、進路に関してはまた別の話だということで私の方に結構な量が来ていました。ですが、もちろん断りました」
月読は、一拍開けて、話を続けた。
「理由として、夏樹くんが霊能力者になりたいわけではなく、一般の学校への進学を希望していること、学力も十分問題ないことです」
きっと夏樹が学力的にまずかったら、霊能関係の学校に叩き込むという手もあったのだろうが、そういうことにはならなかった。
また色々「やらかす」生徒ではあるが、教師受けは良い。
授業もサボりはするが、その原因を聞けば教師だって「仕方がないかなぁ」と思えてしまうことが多い。
単純に遊んでいて怒られることもあるが、反抗する生徒ではない夏樹を暖かく見守っている教師は多いのだ。
扱いに困る生徒であることは、否めないが。
「ですので、大半は断れました。今もしつこいところがありますが、なんとかしましょう。ですが、一校だけ断れない学校があります。これは私の話で申し訳ありませんが、先方の教師に私が借りがあるということです。同時に、一校くらいその空気を触れてみるのもありではないかと純粋に思っていました」
「補足させてもらうが、何も霊能力者になれ、そっちの学校に通えと言っているわけじゃないんだ。二年生の時に体験入学があっただろう? その感覚で一校だけ、触れてみるのもいいんじゃないかと単純に教師として月読先生は考えている。無論、私もだ」
「夏樹くんが霊能力者にならないことはわかっています。その上で、言いますが、中学生が思う将来というのは、大人から見るとあやふやなところがあります。だからこそ、経験して欲しいのです」
月読だけではなく、萌葱も補足を入れてくれた。
夏樹を含め、そこまで言われたから一日くらいいいじゃないかなと思った。
「と、いうのが昨日までの私の考えでした」
「……おっと、話が変わってくるぞぉ!」




