98「一登がパワーアップ予定じゃね?」
「おはよう、お兄ちゃん!」
「……おはよう、夏樹くん」
「おはよう、杏さん、一登……って、どうしたの? めっちゃ疲れた顔してるじゃん」
通学路の途中で、待ち合わせしていた夏樹と一登、杏は合流する。
夏樹と杏は一登が疲れて生気のない顔をしていることにぎょっとする。
「うん、まあ、いろいろありました。ざっくり言うと夏樹くんのせいで」
「お兄ちゃん?」
「待って待って、俺何もしていないんですけど! 帝国とのいざこざで忙しかったんですけど!」
いきなり夏樹のせいにしてきた一登のせいで、杏に責めた視線を向けるが、まったく心当たりがない。
強いて言えば、土曜日に「帝国」と死の神との戦いに巻き込んでしまったくらいだ。
「あのね、夏樹くん」
「うん?」
「俺の家にね、炎の神様が来たの」
「ああ! よかったよかった! 俺が紹介しておいたんだよ! 興味があったら行くって言っていたんだけど、無事に会えて何より!」
「無事じゃないけどね!? あとやっぱり夏樹くんのせいじゃない!」
大きな声を出したものの、すぐにため息に変わってしまう。
そんな一登を心配し、杏が尋ねた。
「えっとね、一登、何があったの?」
「ざっくり言うと、俺の力が勇者として不完全だから炎の神が娘さんである火輪の剣とひとつに戻ることで、俺は勇者の完全体になっちゃうらしいの!」
「いいことじゃない?」
「そうだね! でも、そのために同棲する必要ってある!?」
「…………杏よくわかんない!」
杏はコメントすることから逃げた。
代わりに夏樹が一登に言葉をかける。
ぐっ、と親指を立てて笑顔を作った。
「きっとまだまだ増えるよ!」
「困るんですけど!? その指折るよ!?」
「こわっ、一登ってそんなこと言う子だったっけ!?」
「夏樹くんに鍛えられたの! 特にこの一ヶ月で!」
炎の神と同棲なんて、祐介くんが知ったら嫉妬に狂いそうだ。
ダークエルフの婚約者がいるのに、彼の欲望は止まることをしらない。
むしろ、それが祐介らしいと婚約者が褒めるのでタチが悪いのだ。
できることなら、祐介くんにも千手と虎童子みたいな純愛路線を貫いてほしいと思う。
「ねえねえ、一登、一登。それで、結局どうなったの?」
「花子さんが一緒にいてくれたから、あれよこれよと親を納得させちゃった」
「花子さんすごい!」
「結局、なぜか俺のことを慕って追いかけてきた少女みたいな感じになって、最初は困っていた親も炎の神様の独自の雰囲気を気に入っちゃって。なんやかんやと受け入れられちゃった」
「……あれー。一登の家って、ファンタジー関連だっけ?」
「一般人だよ。たぶん。でも、あの順応性はファンタジーだった」
ため息をつく一登に、どんまい、と夏樹と杏が肩を叩いた。
そんな一登の姿に、道ゆく少年少女たちが「憂いを帯びた一登きゅんが朝から見れるなんて、ありがてぇありがてぇ」と拝んでいたが、スルーすることにした。




