96「やっぱり月読先生は大変じゃね?」②
「ところで、月読くん。由良夏樹くんという子はどのような子かな? 少し調べさせてもらったのだが、やんちゃな子であるようだが」
「笹山先生……ご心配せずとも、少々やんちゃでも素直でまっすぐな子ですよ」
「――そうかね。それはいいことだ」
笹山は先ほどまでの勢いがない。
何やら悩んでいるような、雰囲気だ。
つい、訪ねてしまう。
「何かありましたか?」
「……いや、その、申し訳ない。気を使わせてしまったかな。私もまだ未熟だ」
「同じ教師として、何かあるのであればお話しください」
「……すまないね、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらいたい」
「はい」
「実は、私のクラスではないのだが、上級クラスの教師と生徒たちの様子がおかしくてね」
「待ってください。生徒だけではなく、教師もおかしいのですか?」
霊能学校のような場所は、一族の中から世界を知った生徒には様々な影響がある。
世界の広さを知る子から、秀でているせいで増長してしまう子もいる。
大事に育てられすぎた子は、少々「調子に乗ってしまう」が、学園で矯正されるか、自分の価値を知ってより調子に乗ることもある。
霊能学校の教師たちは、院に所属する一族に関係がある人間たちだが、生徒のために一族などのしがらみなどを無視して厳しくする。
結果、生徒に好かれるか嫌われるか分かれることが多いが、それでも生徒を良い方向に導かんとしていた。
だからこそ、生徒がおかしいことがあっても教師までおかしいというのは月読にも初耳だった。
「教師も、です。上級クラスには教師が三人ついているのですが、全員おかしいのです」
「それは、なぜ」
「わかりません。何度か会話をしているのですが、普通なのですよ。良き教師として生徒を導こうと頑張っています。しかし、いざ教育の場になると人が変わったように変化してしまいます。その思想は、過激です」
「過激、ですか。それまさか」
「お察しの通り、選民思想です。霊能力者が一般人を守ってやる、と生徒が言い出した時には眩暈がしました。私も生徒たちに接触してみたのですが、普段関わりのない生徒ですのでなかなかうまくいかず。それどころか、上級クラスの生徒が私の生徒に執拗に嫌がらせを始めてしまったのです」
月読は頭痛を覚えた。
若き霊能力者が選民思想を抱くのは「はしか」のようなものだ。
あとで恥じることになるものの、大半が考えを改めるので大人たちは見守りながら、注意を続ける。
ただし、例外もある。
一族によっては、当たり前に力を持つ者が弱者を支配するという思想を持っている。
一般人にも善人と悪人がいるように、霊能力者にも善人と悪人がいるのだ。
「まさか笹山先生の生徒も?」
「いえ、さすがにそのようなことはないのです。ないのです、が、心配で仕方がありません」
「お気持ちはわかります」
「ありがとうございます。私が恐れているのは、それだけではないのです。こういうことはたまにあります。ですが、生徒の口から――新たな神々、と」
「まさか」
「流石に、流石に、関わっていることはないでしょうが、何かしらどこかで影響を受けていたのかもしれません。だからこそ、由良夏樹くんと言う、外部の新しい風に期待したのです。だから、学校を見学をお願いしたい!」
月読は口には出さなかったが、心の中で思う。
(……夏樹くんには申し訳ないですけど、これはもうイベントではないでしょうか? 仮に新たな神々が関わっていなくとも、新たな風というか暴風というか……)
「……あー、その、彼としっかり話をしてみます」
「お願いします、お願いします、月読先生!」
月読はちょっとだけ胃が痛くなった。




