89「月読先生のお家にこんにちはじゃね?」②
「兄ちゃん! 親友との久しぶりの抱擁を邪魔しないでくれよぉ!」
「抱擁って……はぁ、まあいいでしょう。由良くん、こちらにどうぞ」
「はーい! お邪魔しまーす!」
月読に言われ、素盞嗚尊はしぶしぶ夏樹を離した。
素盞嗚尊とハイタッチした夏樹は部屋に上がるとダイニングの小梅の隣に座った。
そして上座に椅子を持ってきて、素盞嗚尊も着席する。
「休日の……色々と、本当に色々と忙しいところ、足を運んでくださり感謝します」
「うっす!」
「……夏樹ぃ、色々とって二回言われたんじゃから普通にお返事するのはいかがなもんかと思うんじゃが」
「何が?」
「あ、気づいておらん! まあええ、話を進めい!」
含みがこもった「色々と」という月読言葉の意味を察することができない夏樹だった。
小梅が促すと、月読は表情を引き締める。
「先ほどまで、死の神と話をしていました」
「拷問っすね!」
「話を、して、いました」
「はい、すみませんごめんなさい」
「…………現在、死の神は私の作った空間の中にいます。こちらが約束を違えないのであれば、彼も大人しくしているでしょう。約束をし、契約を交わしましたが、彼がその気になれば契約を無理やり破棄して空間から戻ってくることは可能でしょう」
「やべえな、死の神!」
「それと戦ってピンピンしとる夏樹も大概じゃがのう!」
夏樹には死の神の「死」が効かなかった。
それが戦いの中で大きなアドバンテージになったことは言うまでもないだろう。
さらに言えば、戦い慣れしている夏樹と、戦い慣れしていない死の神では差があった。
それでも長い時間を生きる神の経験と、神としての根本的なスペックはあまりにも高かった。
「百合園ありすさんにも連絡をとりましたが、すでに死の神が回復を願う少女を見つけたようです」
「はい、先生!」
「由良くん、どうしましたか?」
「その女の子が見つかったとして、どうやって海外の病院に連れていくんですか?」
「私もそこが疑問でしたが、百合園ありすさん曰く、お父上がこちら側のことを知っており、また少女の入院する院長とも友人であるとのことです。また病院の院長もこちら側を知っているので、言い方はとても悪いですが……丸め込んでくださるそうです」
「本当に言い方が悪いのう!」
夏樹は思う。本当に、自分が知らなかっただけで、ファンタジーを知っている人って多いなぁ、と。
「ざっくり聞いた感じですと、いろいろ奇跡が起きて、寄付があって、いい感じになったと言うそうです」
「それでラッキーとはならんじゃろう!?」
「親御さんは心配するでしょうね。その辺は申し訳ありませんが任せましょう。そして、ひとつ確定事項としてお伝えしておきます」
月読は夏樹たちを見て、はっきりと言った。
「――死の神は、その少女に同行させます」




