84「そこで帰るのはなくね?」
荒ぶる雷の閃光が収まると、無傷の夏樹と右腕を失ったはじめの姿があった。
「――やるな、由良夏樹。これほど心地の良い痛みは初めてかもしれない」
「気持ち悪いやつだな」
「そう言ってくれるな。俺に痛みを与える人間は滅多にいないぞ!」
肩の付け根から腕を失っているのに、平然と会話を続けるはじめに少々の気持ち悪さを覚えた。
痛みを感じているように言っているが、疑わしいほど余裕がある。
普通なら、痛みでのたうち回るか、下手をすればショック死するだろう。
夏樹も腕を失えば、痛みに顔を顰めるくらいする。
「雷使いとは心が躍るな。切断と一緒に止血までサービスとは痛み要る」
「こいつ、マジきもいんですけど」
「今回は俺の負けにしておこう。確認したいこともできたので気はすんだ」
「おいおい、腕一本失った状態で上からじゃないですか。このまま俺から逃げられると思うのか?」
「思う、思わないの問題ではなく俺は逃げることができる。――まず、これを見せよう」
虚空から短刀を抜く。
小さな刀に凄まじい力が宿っていることがすぐにわかった。
「癒しの短刀だ。死んでいなければ、簡単に治る。このように、な」
短刀を失った腕の近くで振ると、瞬く間に消失した腕があった。
生えたのか、それともまた別の動きなのか、夏樹には見えなかった。
「そして、これも披露しよう」
またしても虚空から引き抜いたのは湾曲した剣だった。
「これは転移の剣。お前が殺した門の神のような世界を渡るような自由自在な力はないが、一度行った場所には瞬く間に移動できる」
「その前に死ねやぁああああああああああああああああ!」
神鳴りの剣を再び振るう。
だが、はじめは笑みを消すことなくまた一振りの剣を抜いた。
「結界の剣だ。俺のいた異世界では最強と呼ばれる攻撃を問題なく防いでいる」
まるで子供が自慢のおもちゃを見せびらかすようだった。
そして、はじめの言葉通り、雷がすべて防がれてしまう。
夏樹が口笛を吹いた。
「やるねぇ。――その剣ほしいなぁ。俺のいた異世界にもそういう剣があったんだけど、俺の攻撃に耐えられなくて全部ぶっ壊れたんだよなぁ。星子さんがいないとはいえ、割と力を込めた一撃を防ぐ剣か。いいなぁ。ほーしーいーなー!」
「はっ、自慢の剣だ。俺を倒すことができれば、譲渡しよう」
「よし! じゃあ殺すぞ! 第二ラウンドだ!」
「だから、今日はこれまでと言っているだろう?」
夏樹が魔力の出力を上げた。
雷が荒ぶり、青雷が走る。
「その力も預かってみたかったな。――じゃあな」
「おい、こらマジで帰るのか!? おま、次は絶対殺すからな!」
「はははは、楽しみだ。じゃあな、仲間になることを考えておけよ」
そう言って、小池はじめは消えてしまった。
「マジで帰っちゃったよ! 普通は死ぬまでバトルだろ!」
「……まあええじゃろうて。こんなところでガチバトルしてもお魚さんたちにご迷惑じゃ」
「――っ、俺としたことが。向島一の紳士がお魚さんたちのことを考えずに戦ってしまった!」
「別にショック受けんでもええんじゃが、それよりもあれをどうするんじゃ?」
「どうしようかねぇ」
夏樹と小梅が視線を向けると、
「ちくしょぉおおおおおおおおおおおお! 俺の黒歴史を消せなかったぁあああああああああああああああああああ!」
「そんなダーリンもあたい、大好き!」
海に向かって絶叫している千手を見て、夏樹はスマホを手に取り誰かツッコミ役にツッコミしてくれそうな人がいないか探した。




