81「偽物なんじゃね?」
「ほーん」
夏樹は白銀の鎧を纏ったはじめを見て、これといって脅威を覚えなかった。
(……俺は鎧とかもらえなかったなぁ。やっぱり、俺の異世界生活って扱い悪くね?)
そして、感想はこんなものだった。
「――俺の自慢の鎧だ。一度も傷ついたことのない俺の」
言葉の途中で夏樹が白銀の鎧ごとはじめを殴り飛ばした。
受け身も取れずに砂浜を転がっていく姿を見送りながら、殴った拳を眺めた。
「――痛かった」
「そりゃ当たり前じゃろうて! なんでお話の途中で殴ったんじゃ!? あんなん奇襲せずとも余裕じゃろうて!」
「痛かったんだよ、小梅ちゃん」
「じゃから」
「異世界の鎧をぶん殴って、拳が痛かったって初めての体験だね。つまり、初体験」
「言い直す意味がないじゃろう!」
ごん、と小梅が夏樹の頭に拳を落とした。
夏樹はまだ拳を眺めている。
指の皮が剥け、血が滲んでいる。
本当に初めてのことだった。
――夏樹は満面の笑みを浮かべた。
「……勇者がしてはいかん顔をしとるんじゃが! しとるんじゃが!」
「あー、終わったな「帝国」。むしろ、やっちまえって感じなんだが、さすがに同情する」
「茨木姉ちゃんよりこええ」
夏樹は立ち上がり、砂埃に咽せ、咳をしているはじめにゆっくり近づいていく。
「――やあやあ、勇者くん。異世界の武器や防具って心が躍るよね! 伝説の、とか業物とか、最強のとか、わくわくするよね!」
「……いきなり殴ってきた文句はあるが、その感情には同意するぞ」
「そんな武器や防具をぶっ壊すのって最高だよね!」
「…………いや、壊すなよ」
「自慢の武器や防具がぶっ壊された時の絶望した顔が、最高で最高で! つまらない異世界生活の中で数少ない俺の癒しだったよ」
「由良夏樹、断言しよう。お前は狂っている」
「ひひひっ、「帝国」なんて組織作って世界の一番になろうなんてことを考えているお前には負けるよ!」
そう笑い、夏樹ははじめの白銀の鎧を全力で殴った。
「だから、その程度で俺の鎧が――――あ」
はじめの口から血が流れた。
夏樹の拳が白銀の鎧を突き破っているのだ。
「もろーい! なっちゃん、びっくり! 身体を守れない鎧とか意味ないじゃーん!」
「……あり、えない」
はじめが血を大量に吐き出し、倒れた。
「……いや、待てよ。さすがに弱すぎだろ。お前、本当に」
はじめの鎧を掴んで持ち上げ、夏樹は首を傾げた。
「お前、誰だよ」
――顔が違っていた。
今まで戦っていた小池はじめの顔とまったく違う男が白銀の鎧を纏っていた。
「――さすがにこれは笑える。全然気づかなかった」
「そうだろう?」
夏樹が鎧から手を離すと、男はそのまま砂浜に仰向けに倒れる。
だが、もう夏樹の意識から彼は外れた。
夏樹は視線を動かすと、砂浜の上にあぐらをかいて座っている男――小池はじめがいる。
「なんじゃと!?」
「……入れ替わっていた?」
「意味わかんない!」
小梅たちも動揺を見せていた。
対し、夏樹は冷静だった。
「幻術系かぁ」
「正解。お前たちはずっと別人を俺だと思って戦っていたんだ」
「いつから?」
「最初からずっと」
「やってくれたなぁ」
「安心していいぞ。この幻術は幻術を俺が使えると認識されると効かない。まあ、幻術なんぞそんなものだ。しかし、うまく引っかかってくれたな」
立ち上がり、ジーンズの砂を払うはじめが笑った。
夏樹も笑った。
「めっちゃ引っかかった。はずかしっ! んで、どうして攻撃して来なかったの?」
「さすがにそれは気づかれるだろう?」
「そりゃそうか」
「そういうことだ。幻術はただ幻を見せるだけの初見殺し。まあ、それなりの使い手ならば、幻術で人を殺せるのだろうが、俺はできない。斬った方がはやい」
「それな!」
「由良夏樹、お前とは気が合いそうだ」
「ごめんね! 俺は幻術使ってドヤ顔する人とは仲良くなれないかな!」




