80「大事なものって手放せなくね?」②
GWの予定ですが、通常更新とさせていただきます。
よいGWをお過ごしください。
「もう、駄目だ。消すしかない、「帝国」すべてを消し去るしか俺に残された道はない」
ゆらり、と幽鬼のように立ち上がった。
いつもの千手ではない。
もともと今日の千手はどこかおかしいが、夏樹が心配になるレベルでおかしいのは問題だろう。
「あの、千手さん。さっきから何を言って」
「――止マレ」
急に千手が魔眼を発動させた。
わずかに身構えた夏樹だったが、停止はしなかった。
最初の出会いこそ、千手と夏樹は敵対し、停止の魔眼を使われたが効かなかった。
しかし、今の千手の魔眼は以前よりも強く、制御されている。
夏樹だって停止する可能性はあるのだ。
「――おま、え」
夏樹たちは停止せず、停止したのは小池はじめだった。
一応は「帝国」のトップを名乗るだけあり、完全停止はしていない。
おそらく、単純な力比べならば千手よりも強いのだろう。もしくは、抵抗力が強いか、どちらかだ。
「知っているだろうが、俺は停止の魔眼の所有者の七森千手だ。悪いが、お前ごと「帝国」を消し潰してやる。お前たちがいた形跡など残さない」
「……言ってくれる」
「それなりの強さで停止をかけたんだが、よく喋られるもんだと感心してやる。使えるものを使って、お前たち全てを潰す。「帝国」なんぞ作らなければよかった、関わらなければよかったとお前たち全員に後悔させてやる」
「面白いことを、言ってくれる」
まだ動けないはじめの前に千手が立ち、宣戦布告する。
停止を解こうと、はじめは抵抗しているが動けない。
しかし、顔は動けるようで、目や口は動く。
「お前も勇者らしいが、その停止の魔眼が厄介なだけで他はさほど大した力はないようだな。魔眼の力は保の方が上、だっ」
そう言ったはじめの身体が動いた。
「――くそっ」
「ぬるいな、七森千手。俺たちを潰すというのなら、後先考えずに全力で俺を停止させればよかったはずだ。保ならそうしていたぞ?」
言葉と同時に拳が放たれた。
千手は腕を重ねて防御の体制を取る。
だが、衝撃は来なかった。
「いやいやいやいやいやいや、俺たちの千手さんを殴るとか」
「ぶっころぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおすっ!」
夏樹と虎童子によって、はじめの拳と腕が掴まれ止められていた。
「どうした、由良夏樹? 頭はお前だったと記憶しているが、七森千手の方か?」
「俺たちのトップは月読先生だ!」
「先生? 教師かなにかにも仲間がいるのか。保め、肝心なことを伝えておかないとは」
「それに、頭とかそうじゃないとか関係なく、仲間は守るだろう!」
「俺は守らない。俺に仲間はいないからな。いるのは俺に従う者たちだけだ」
「うるせぇええええええええええええええええ!」
夏樹は全力ではじめの頬を殴った。
確実な手応えがあったが、はじめは足に力を入れて踏ん張り、また夏樹たちが腕を握っていたせいもありその場に止まった。
口から血を流しながら、笑う。
「いいぞ。これくらいのことをしてくれなければ意味がない。では、次は俺の番だ」
そう言ったはじめの全身から魔力が放たれ、その勢いに夏樹たちは弾き飛ばされた。
砂浜を転がるもすぐにたち上がった夏樹たちの前に、白銀の鎧を身につけた小池はじめがいた。
「由良夏樹、そしてその仲間たち。異世界で手にした勇者の力を存分に見せてやろう」




