78「千手さんだって悪い顔をする時があるんじゃね?」
――七森千手は死にそうだった。
(……俺が帝国だって、俺が考えた最こ……違った、忌まわしい決め台詞をなぜ知っているぅううううううう! やっぱりあのノートは見間違いじゃねえ。あのクソ親父が捨てたせいで、俺の黒歴史ががががががががががが)
「帝国」の皇帝を名乗る小池はじめの持っているノートに、千手は見覚えがあった。
中学時代にコツコツと書き連ねた「設定」が山のように書かれている。
思春期に入り、愛人の子だなんだと義理の兄と姉に言われたストレスを書き連なった呪われしノートだ。
しかも、適当に入った文具店で一番分厚いノートを買ったのだ。
ノートページは二百枚だった。
その全てに書いた。書きまくった。
なんだったら魂の名前まで書いてしまった。
(落ち着け、落ち着くんだ。ノートに関してはどうせ由良が殺すから回収すればいい。問題は、他にもあと二冊ノートがある。パターンを変えたものが、あと二冊もあるんだぞ! それはどこだ!?)
夏樹たちが何やら会話をしているが聞こえない。
集中できず、耳が機能していない。
(他にも、柏原保がどうして俺のかっ……不出来な主人公のひとりの格好をしている。眼帯、包帯、実際に目にすると痛々しいというか、悲しいというか、辛いんだよ! あいつも消さなければいけない。おそらくあの野郎もノートを読んでいやがる)
今日だけは、夏樹を全肯定することを決めた。
たとえ、この砂浜を消し飛ばそうと、月読命に一緒に土下座して許しを請う覚悟はできている。
なんだったら、全力で擁護して「帝国」が全て悪いと言おうじゃないか。
「…………虎童子」
隣に立つ、鬼の虎童子にそっと声をかける。
「どうしたの、ダーリン? かつてないほど悪い顔をしているんだけど。でも、とらぴーはそんなダーリンがちゅき!」
「そんなことはどうでもいい。由良があの野郎に攻撃したら俺たちも襲撃するぞ」
「……ダーリン? そんな殺伐としたキャラだったっけ?」
「今日だけキャラ変だ。いいか、奴の腕、あのノートを持っている腕を引きちぎるぞ。俺でも、お前でもいい。とにかく引きちぎる。そして、あのノートを奪取するんだ」
相手は異世界帰りの勇者らしいが、古くから存在する鬼と、魔眼を制御できるようになった自分ならば腕一本くらいなんとかできるはずだ。
「ノート?」
「そうだ。おっと、中は見るなよ。お前にはまだ早い」
「……あたい、ダーリンよりもずっと長生きなんだけど」
「生きている時間の問題じゃねえ。関わった時間の問題だ」
「とらぴー意味わかんないけど、ダーリンのためなら頑張る!」
「よし。いいぞ。うまくいったら、それなりに感謝を示したいと思っている」
「――っ、今、なんでもするって」
「言ってねえよ!? どんな耳してるんだよ、俺がそんな凡ミスするわけないだろ!」




