75「用があるならお前から来いって思わね?」①
――その頃、ダンス教室では。
「素晴らしい! なんて情熱的で、それでいて繊細なの! 私はダンス教室の講師としてこのふたりを世界に羽ばたかせる義務があるわ!」
春子とサタンのダンスに講師が感動していた。
■
昼食を取った夏樹たちは麦茶を飲みながらのんびりしていた。
夏樹にとって、慌ただしくない穏やかな時間が過ぎていく。
春の暖かな日差しに、少しだけ眠くなった。
――瞼を閉じそうになっている時、強い力を感じ取って夏樹は目を見開いた。
「由良、これは」
「……随分な魔力じゃのう」
「お腹いっぱいで気持ちよくなっているところでこれっすか」
「ぶっ殺す!」
夏樹たちが感知した魔力は一瞬だ。
力持つ者でも、あまりにも瞬きの間だっため力に気付けなかったものがいるだろう。
むしろ、夏樹たちに向けて力を放ったとさえ感じる。
「せっっっっかくイベントがないと思っていたのに。よし、殺そう」
「さすが殺戮の勇者だな!」
即座に答えを出した夏樹に、虎童子が手を叩く。
「ギャラクシー河童勇者です! 間違えないで! タイガーさんも千手さんの奥さんじゃなくて、祐介くんの奥さんって間違えられたら嫌でしょ!」
「――切腹する。本気でする」
虎童子の目は本気だった。
躊躇いがない、覚悟の籠った目だった。
「だからギャラクシー河童勇者を間違えたらだめよ!」
「あいよ! それで、いくんだろう?」
「行くさ! 相手はそれが御所望さ! 応えてやるのが勇者ってもんよ!」
「俺様もいくんじゃ!」
「私もっす!」
「ちっ、ストッパー役が必要だな。俺がどこまで役に立つのか知らねえが」
「ダーリンが行くならあたいも行くよ!」
夏樹たちはやる気満々だった。
「じゃあ、ボクはお留守番しているから帰りにアイス買ってきて」
「喜んで!」
リヴァイアサンが留守番をしてくれているのなら、万が一はないだろう。
夏樹たちは、力の発生源。
――向島市の海岸に向かった。
■
幸にして、海岸はまだ人がいなかった。
遊泳期間が設けられているおかげか、昨今のゴミ問題で駐車スペースが減ったことも原因だろう。
なんにせよ、巻き込まれる人間がいないことはいいことだ。
――待ち人は一人だった。
幾人か他にもこちらを伺う気配があるが、気にすることではない。
「……お前が由良夏樹だな。見ればわかる。その力、堂々としたたたずまい。すべてが強者のそれだ」
砂浜に立っているのは、ジーンズに白いTシャツというシンプルないでたちの青年だった。
年齢は二十歳ほどだろうか。千手よりも少し若い印象がある。
どういうわけか、手には分厚いノートを一冊持っている。
それ以上に、濃い血の匂いがした。
「あんたもそこそこ強いみたいだね。わざわざ魔力で呼びやがって。玄関のチャイムを鳴らして夏樹くんあーそーぼーって言えや!」
「俺も面倒なことはしたくなかったが、保がお前の家には近づくなと言うからな。あいつは小言がうるさいからこういう手段で呼び出しただけだ」
「保ぅ? つまりお前は、「帝国」の雑魚か!」
「俺が「帝国」だ」
「はわわわわわわわわわわわわわわ。あ、あいつの手にあるノートって見覚えあるんですけどぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
夏樹たちが睨み合っている中、千手は見つけてはいけないものを見つけてしまい震えていた。




