74「焼きそばっていつ食べてもうまくね?」
「……ん、なんで俺は、寝ていたんだ?」
「あ、千手さん。起きたー?」
千手がむくりと起き上がる。
外されていたサングラスを手で探し、傍に置いてあることに気づくと手に取ってかけた。
京都で蘆屋道満によって魔眼を調節してもらったおかげで暴走の危険がなくなったため、魔眼封じを施してあるサングラスは必要ないのだが、十年以上サングラスをして生活をしているため無い生活には未だ慣れていない。
「……由良、俺に何をした?」
「何を言ってるの?」
「急に意識が飛んでいるんだが」
「千手さん、ちゃんと眠れていなかったみたいだから、うたた寝してそのまま寝ちゃったんだよ」
「……そうなのか?」
「寝ているはずなんだけど、夢の中でしっかり意識あると寝た気がしなくて疲れちゃうんだよねぇ」
「……どうやらそうみたいだな――て、由良! 俺の夢の中に」
「それは聞いたって。千手さんには本当に申し訳ないんだけど、俺の夢だか心の中だかどちらかわからないけど不法占拠されている状態だからなにもできません!」
「まじか……」
夏樹がはっきり言うと、千手はあからさまに落ち込んでしまった。
きっと夏樹のもとにくればなんとかなると思っていたのかもしれない。
実際は、風の神が起こしたことを夏樹が解決できないという悲しい現実だった。
「俺は佐渡じゃねんだから人外、しかも神と接触しても胃が痛くなるだけで嬉しくなんて微塵も思わねえんだよ」
「祐介くんかぁ」
「そうだ、佐渡を呼んで代わってもらおう!」
「風の神さんが千手さんを選んだのなら祐介くんに交代はできないと思うんだけど、それ以前の問題として……」
「うん?」
悲しそうな顔をして夏樹は自身のスマホの画面を千手に見せた。
「佐渡から?」
画面を見つめた千手の目に入ってきたのは、祐介の悲痛な叫びだった。
『ね、ねえ、ちょ、ま、あの、たすけ、ふんどし、ふんどしが、ふんど、ふどんしがかめればいまえびぽて』
「きっと大変なことが起きているんだろうね。最後なんてもう何を言いたいんだかわからないよ」
そう言うが、夏樹はなんとなく想像できていた。
大地の勇者が「ふんどし」とメッセージで送ってくるのだ。
絶対に大地の神案件だ。
関わらないことに決めて、そっとスマホをしまう。
「というわけで、祐介くんは遠い世界に旅立ってしまったのです」
「……雑な片付け方するんじゃねえよ」
「そーもーそーもー! 俺が夢の中に連れてこられて色々大変だった時は自分でなんとかしたんだから、千手さんもしてください!」
「俺は勇者じゃないから無理に決まっているんだよ!」
「ツッコミの勇者じゃん!」
「どんな勇者だ! ツッコミをいれて何がどうなるって言うのだ!」
夏樹と千手が口喧嘩をしていると、小梅と銀子、虎童子、リヴァ子が手際よく丸テーブルの上の昼食の支度をしていく。
「――今日は焼きそばじゃ!」
「わーい!」
「マジか、意識とばしている間に昼になっていたのか」
「出来立てが一番うまいんじゃ! とりあえず昼じゃ!」
夏樹と千手も円テーブルの前に座った。
箸を持ち、みんなで手を合わせた。
「いただきます!」
焼きそばは美味しかった。
きっとこのまま今日はイベントがないというイベントなんだと夏樹は確信した。




