73「千手さんは苦労が多くね?」②
「由良ぁああああああああああああああああああ!」
千手が吠えた。
どうどう、と虎童子が背後に周り押さえ込む。
そっと腕に首が周りゆっくりと締め付けていく。
しばしもがいていた千手だったが、かくん、と眠るように落ちた。
「タイガーさんの手際が鮮やかすぎて攻撃魔法しか出ない」
「出すなよ!? あたいは体術っていうか、身体が武器だからな。使い方くらいはわかってるんだ。ダーリンにあまり手荒なことはできないっていうか、むしろ手荒なことはあたいがされたい派だからさ」
「未成年にそんなこと言われても困るぅ!」
座布団を畳んで枕がわりにすると、千手を畳の上に寝かせた。
「ふう。んで、タイガーさん的には千手さんの言っていることってマジかな?」
「あたいは何も感じなかったんだよなぁ。あんたの夢の中だか精神の中だか知らないけど、強い存在がダーリンの意識を引っ張るのなら力を少なからず感知できると思うんだけど。――もしくは」
「もしくは?」
「力が強すぎてわからなかったって感じか?」
「うーん、千手さんに風の神さんのことを伝えてあるから、実際会ったのかどうなのかわからないよね。これで力を授かってきたのならまた話は違うんだけど」
「そもそもの話なんじゃが、本当に風の神とかいるんか? 夏樹を疑うわけじゃないんじゃが、俺様たちはまだ誰も会っとらんのじゃが?」
小梅の指摘に夏樹は思い出した。
月読はホラーさんこと「海の神」と邂逅しているが、他の神とは会っていない。
それは小梅たちも同じだった。
「いるよ。びっくりしたよ、海の神さんだけじゃなくて、陽キャの神と大地の神と炎の神と風の神が俺の中にいるんだって! 正直、不法侵入だよね。銀子さん、逮捕よろしく!」
「まず私の前に現れてくれないと逮捕も何もできないっすよ」
苦笑する銀子に、夏樹は不満そうな顔をした。
自分の心の中を常夏のビーチにした挙句、焼きそばまで販売している奴らを野放しにはできない。
「こういう時にクソ親父がおったら、千手を調べてもらったりできたんじゃがなぁ。しゃーない、ゴッドの方を頼るか?」
「やめて、小梅ちゃん! 千手さんが違う意味でまた倒れちゃう!」
「わかった、わかった。親父待ちにしとくんじゃ。まったく、クソ親父だけなら呼び出すんじゃが、今日は春子ママに迷惑がかかるからのう。まあ、千手じゃからええじゃろう」
小梅の言う通り、サタンは春子とダンスのレッスン中なので邪魔はできない。
千手には悪いが、一刻を争うものではないので待ってもらおう。
「私、思うっすけど」
銀子がすっと手を上げた。
「風の神さんは女性らしいっすけど、千手さんに新たなフラグが立つんじゃないっすかねぇ。その辺、虎童子さんはどう思っているっすか?」
「――ダーリンみたいな素敵な男に女が集まるのは至極当然のことじゃねえか! むしろ集まってこいって声を大にしていいたいね! 正妻はあたいだが、他の女を許さないほど狭量じゃねえぜ!」
「やだ、タイガーさんかっこいい!」
きりっ、とした表情で度量の深いことを言った手を広げる虎童子に夏樹たちは惜しみない拍手を送った。




