72「千手さんは苦労が多くね?」①
「どうしたの、千手さん。あとタイガーさんまでお昼前だって言うのに。あ、ご飯のお誘い?」
「違う! 違う違う違う違う! 俺に、俺に不思議なことが起こった!」
「え? パワーアップでもするの?」
「しねぇよ!」
玄関の前で騒いでいた千手と虎童子を家の中に入れて、茶の間に通す。
リヴァ子が準備した麦茶を、礼を言って飲み干した千手は、いつのも冷静さを失っているように見えた。
正直、夏樹だけではなく、この場にいる彼以外の者たちが心から心配していた。
「俺は、昨日の夜――由良の中に俺がっ」
「だからそれはやめてぇ!? 座ってた銀子さんが立ちあがっちゃったじゃん!」
全員の視線が銀子に向く。
姿勢正しく正座していた銀子が、立ちあがっていた。
はぁはぁ、と何やら興奮している気がするが気にしないようにしよう。
「青山の姐さんの好きな話じゃなくてだな! マジで俺は由良の中にいたんだ!」
「……夏樹くんの初めてがそんな簡単に奪われたなんてひどいっす!」
「そうじゃねえよ!」
「ダーリン! これ以上は血圧があがっちゃうから! この間、先生に血圧が高いから薬を飲むことも考えるように言われたばっかりじゃん!」
虎童子は、千手を案じて腕にしがみついて離れない。
「……千手さん、病院通っているんだ」
「お陰さんでな!」
「ヒールする?」
「精神的な問題が大きいからいらねえよ!」
「……心の問題って現代病だもんね。いつでも相談乗るからね」
「…………あり、がと、う」
虎童子が千手をよしよしと撫でて「よく怒鳴らなかった、さすがダーリン!」と褒めている。
夏樹はそんな二人を見て、いちゃついてんじゃんねえよ、と思った。
「そんで、真面目に千手はなにしにきたんじゃ?」
「疲れているみたいだねー。おかわりどうぞー」
小梅もいつもの千手らしくない言動に心配の声をかけた。
千手はリヴァ子から麦茶をおかわりをもらい礼を言うと、落ち着くために一口飲んでから、真剣な顔をして改めて話を始めた。
「……夜の話だ。俺は夢の中でイルカと戯れる夢……いや、それはどうでもいい。とにかく夢を見ていたと思ったら、急に常夏のビーチにいたんだ!」
全員が「――あ」と何かを察した。
「正直、俺はホラー展開になると思っていた。だけど、違った。風の神を名乗る少女に絡まれたんだ!」
「――風の神さんまだいたの!?」
「いたんだよ! まずはそこからかよ!?」
千手は結局大きな声を出してしまった。
そして、疲れたように、大きくため息をついた。
「よくわからないが、俺に力の押し売りを始めてきたからなんとかしてくれ」
「うーん、無理!」
なっちゃん「そもそもあの人っていうか、神? いつまでも俺の中にいるの!? 使用料とるよ!?」
小梅さん「そういう問題なんか!?」
銀子さん「それよりもよかったっす。夏樹くんの初めてが奪われたわけじゃなくて」
なっちゃん「その話銀子さんしかしてねえから!」
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