71「健やかな朝じゃね?」②
朝食を食べた由良家はそれぞれ動き始めた。
まず春子とサタンはダンス教室のレッスンに向かった。なんでも大会が近いようで、少し熱が入っている。
息子の夏樹は、大会に出るほど母がダンスをしていたとは思わず素直に応援した。大会にも応援に行きたい。
リヴァ子は、「今日の配信は夜だから昼間はだらだらするー」と茶の間でテレビを見ていた。
小梅とチャンネル争いをしている姿は姉妹のようで微笑ましい。
星槍姉妹の星子と菜々子は人の姿になって生活をしているため、いろいろなことに興味を持ち始めた。
今日は近所を散策するといってもう出かけている。
春子からお小遣いももらっているので、楽しんでくれると嬉しい。
万が一のことがあっても、夏樹と繋がっているため一瞬で力として顕現できるので離れていることに不安はない。
そして、銀子はずっとぐでーっとしていたが、朝食を食べてシャワーを浴びたことでようやくシャッキリしていた。
「いやー、まいったっすよ! 私だけ夜中まで、犯罪者を収容施設に送ったりしなきゃいけないんすから」
銀子はサタンと事前に「帝国」の襲撃は言わないことにした。
情報の共有は大事だが、せっかく休みの夏樹に変な気苦労を負わせたくなかったのだ。
「どうっすか、夏樹くん? 収容所の見学とか行ってみます? 力自慢が力使えなくなって泣いている姿とか見て大笑いするのってめっちゃすっきりするっすよ!」
「……なーんで、そんな悪趣味なことを満面な笑顔でいうのぉ?」
「あれ? 満面の笑みっすか? あれー? そんな笑っていたっすかねぇ」
「邪悪な満面な笑みだったよ!」
「ひでえっす! 美少女はそんな顔をしねーっす!」
「誰が美少女じゃい! 控えめに言って美女じゃろうが! なんで無理やり『小』をつけるんじゃ!?」
テレビを見ていた小梅が、二十歳を超えて自分を美少女と言った銀子に鋭いツッコミを入れた。
「小梅さんだって自称美少女じゃないっすか! 私よりも年上なんだから、なんだったら老人通り越してミイラじゃないっすか!」
「言ってはいかんことを言ってしまったようじゃのう! 天使が干からびるわけがないじゃろうて! 俺様は永遠の美少女じゃ!」
「くっだらねー」
火花を散らす銀子と小梅を見て、うんざりした顔をでリヴァ子が小さな声を出した。
地獄耳の小梅と銀子が聞き逃すわけがなく、全力でリヴァ子を睨んだ。リヴァ子も負けずに睨み返す。
「言っておくけどー、一番の美少女はボクだからぁああああああああああああああ!」
「男じゃろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「男の娘は男の娘であって、美少女ではないんすよぉおおおおおおおおお! むしろ美少女よりもお得なんっすよぉおおおおおおおおおお!」
「ごめん、それはよくわからない」
「すまん、俺様もよくわからない」
「あれー?」
銀子の叫びのおかげで小梅とリヴァ子が正気に戻った。
「みんな朝から元気だなぁ。今日はこんな感じで何事もなく一日が終わるといいなあ」
小梅たちのやりとりを微笑ましく見守っていた夏樹だった。
すると、三人が信じられないと言わんばかりに目を見開いて夏樹を見た。
「え? どうしたの?」
「夏樹ぃ、それは間違いなくフラグじゃ!」
「フラグっすねぇ」
「フラグだねぇー」
女性陣がため息と共に言葉を吐いた時、由良家のインターホンが連打された。
「由良ぁあああああああああああああああああああ! 昨晩、俺はお前の中にぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「いや、千手さん!? 人の家の前でなんてこと叫んでるの!?」
「――詳しくっす!」
「そりゃ俺もだよ!」
夏樹は玄関に向かって走った。




