63「一度疑ったらまた信じるのって大変じゃね?」①
――銀子たちが魔剣の名前を考えている頃。
「―――――はっ、はあっ、はあ、はあっ」
サタンに植え付けられた恐怖から未だ逃れることができない柏原保が整わない呼吸をなんとかしようとしていた。
彼の傍には、ステファニー・鈴木が控えている。
彼女は散々銀子に殴られて顔を腫らしていたが、魔剣の使い手であると同時に魔法も使えるので回復魔法を使っていた。
顔を集中して治したものの、他に手が回らなかったので身体を少し動かすだけで痛みが走る。
それでも魔王サタンの魔力に当たられた保よりはマシだった。
(――それにしても、魔王サタンの言った強奪の勇者というのは一体? それに、保さんの使った魔剣は……)
動けない保を由良家からできるだけ離れようと思い引っ張ってきたが、それが正解だったのか悩む。
(保さんは魔眼の勇者と言っていたのに、魔王サタンは強奪の勇者と言った。強奪? 奪うということ?)
強奪の意味くらいわかる。
魔王サタンが保を強奪の勇者と言ったのには意味があるはずだ。
ステファニーを疑心暗鬼にするために、わざわざそんなことを言う必要などない。
すでにステファニーは、保を疑っている。
彼を信じていいのか、わからない。
その理由は、「鮮血の剣」と「岩鬼の剣」だ。
ステファニーは、両者の剣の使い手である異世界帰還者を知っている。
同じ剣士として、何度か会話を重ねたこともあるし、焼肉を食べに行き、カラオケにも行った。
だが、彼らは戦いで死んでしまったと伝えられている。
死体も残らなかったと聞き、涙を流した。今でも、あの時の悲しみは鮮明に覚えている。
そして何よりも、ふたりの死を告げたのが柏原保だ。
――偶然か?
死んだふたりの剣を柏原保が持っていたとでもいうのか。
死の間際に託されたとでもいうのか。
そんなわけがない。
そんなこと、できるはずがない。
ステファニーの魔剣は、彼女自身が死ねば消える。力というのはそういうものだ。
剣に選ばれるということはそういうことなのだ。
武器屋で買った剣を装備しているのとわけが違うのだ。
しかし、保は「鮮血の剣」と「岩鬼の剣」を持っている。
なぜだ。
考えれば考えるほど、魔王サタンの言葉が思い出してしまう。
――強奪の勇者。
柏原保が、魔眼の勇者ではなく強奪の勇者であれば話が簡単だ。
「……はぁ、はっはっ、はぁっ……ステファニー、これは、どういうことかな?」
気づけばステファニーは、両膝と両手をついて汗と涙と唾液を垂らす保の首に剣を突きつけてた。




