40「数週間ぶりの帰還じゃね?」
「いやはや、ようやく向島市に帰ってこられましたな!」
額の汗をハンカチで拭いながら、向島市の河川敷に立ち懐かしむ視線を向けるのは少しぽっちゃりとした眼鏡をかけた青年だった。
――彼の名は、早乙女雅。
雷神トールとオーディンと秋葉原で出会ったのをきっかけに、アースガルズに温水洗浄便座を取り付けに行くことになった。
水道関係でバイトをしていたので便座の取り付けには問題はなかったのだが、電気や配管がなかったのは慌てたが、そこは流石オーディン。魔法でちょちょいと使えるようにしてしまったのだ。
ならば最初から魔法でやればよかったのでは、と雅は思ったものの、聞けば知識があっても実際できるかどうかは別らしい。雅の設置と細かな説明があったからこそ成功したとのことだ。
雅はアースガルズで大々的に歓迎され、神々や女神たち、ヴァルキリーたちと交友を深めた。特に、親しくなったのは北欧最大のトリックスターロキだった。
ロキは日本文化が大好きだが、日本に行くことはオーディンから禁止されていたのだ。そこに雅が現れ、アニメの話で盛り上がり、連絡先の交換とネットゲームでも繋がり、ロキは大満足だった。
向島市に帰ってくるにあたり、最後まで「帰らないで!」と駄々をこねたのはロキだった。
「トール殿もオーディン殿も本物だとは思わなかったですなぁ。この話を同志佐渡祐介どのに話すことができたらよかったのですが、ファンタジーのことはあまり他言するべきではないと言われてしまったので残念でしかありませぬ」
気づけば、三週間近くアースガルズにいた。
もっと滞在してもよかったのだが、同志佐渡祐介が婚約者を連れて帰ってきたなどというここ数年で一番大きな連絡が来たので同志を祝福するために帰ってきたのだ。
もともと祐介は明るく、優しい友だった。雅をはじめ、同志たちと日々魂の研鑽をする仲間であった。
そんな祐介が、急に引きこもってしまい、心配したのはいうまでもない。
何度も家に足を運んだが、会うことも声をかけることもできなかった。SNSを経由して連絡しても、スマホの電源をいれていないのか連絡がつかなかった。
トールと出会った時も、祐介が部屋から出てきたことへの祝福を兼ねて、彼が以前より欲しがっていた人外娘のフィギュアを購入するためだった。
そこからアースガルズにいたため、雅は祐介に未だ会っていなかった。
「同志川崎沙也加殿からも、祐介殿は良き友人を得たと聞いたのであまり心配はしておりませんでしたが、早く会いたいですなぁ」
雅はゆっくり河川敷を歩く。
アースガルズでの日々のおかげで、向島市にもファンタジーがあることを知り、そしてファンタジーの住人たちも認識できるようになっていた。
「いやぁ。釣りに通っていた川で河童どのが戯れているとは……ファンタジーですなぁ」
流れてきたのだろうボールでバレーをしている河童を眺め、雅は頬を緩めた。
――早乙女雅が月読ファミリーに加入するまであと少し。




