93「困った時のゴッドじゃね?」②
夏樹はすっかり失念していたが、全知全能らしいゴッドが向島市にいる。
魔王サタンの父親であり、小梅や花子の祖父でもある後光輝くみんなのゴッドだ。
ゴッドは夏樹が異世界に召喚されて勇者をしていたことを把握していた。
祐介のことも把握しており、彼のあまりにも凄惨な扱いを見て救済を決めて、時間を巻き戻すこともしてくれた。
夏樹と祐介がいた異世界の管理を任されたことをきっかけに、世界を平定するために夏樹たちを異世界に送り込んだりもした。
――そんなゴッドならば、篠原キリエが召喚された異世界に再び彼女を送り込むことができるかもしれない。
「ゴッドのこと忘れていたよ。後光が眩しい人って認識だけの、たぶん全知全能だもんね!」
「俺様も忘れておったわ。俺様にとってゴッドはお小遣いとお年玉をくれるお祖父ちゃんでしかないからのう」
「……由良も小梅の姐さんもゴッドの扱いが悪すぎるだろう!」
「てへへ」
「てへへ、なんじゃ」
「はぁ」
夏樹としても、ゴッドならキリエを異世界に戻す手段はあると思う。ただ、望んだからと言って無条件に戻してくれるとは思わない。
むしろ、駄目だ、と断られる可能性もあると思う。
(しっかし、異世界に戻りたい、か。俺は絶対にそんなことは思えないんだけどなぁ。キリエさんがいた世界が良い世界だったって言うのは救いなのかな。いや、地球にいる家族やクラスメイトが最悪で、異世界が良かったのに地球に帰ってきちゃったのなら……それはそれでしんどいよねぇ。俺としては、戻りたいと思える異世界に召喚されたのがちょっとだけ羨ましいかな)
夏樹の異世界者はお世辞にも良いものではなかった。
ただ、異世界で「聖剣さん」こと「蒼穹の星槍」に選ばれ、師匠と出会えたのだ。
異世界で力を得たことをきっかけに、地球で小梅たちに出会えた。
異世界は本当に嫌だったが、大切な家族と出会えたきっかけでもあるので、感謝は絶対にしないが、勝手に召喚して使い潰そうとしたことは許してやろうと思えた。
もっとも、夏樹が許すべき異世界の人間はもういないのだが。
「ねえ……もしかして、私は異世界に帰ることができるの?」
キリエが縋るような目を夏樹たちに向けている。
異世界に帰る手段がなく、荒んでいたキリエにとって夏樹たちの言う「ゴッド」の存在は一筋の光なのだろう。
「えっと」
「お願い、あの世界に帰りたいの。勝手なことを言っていることは承知しているけど、「帝国」も何もどうでもいいの。私にとって、異世界が故郷なの。大切な家族がいるの。お願い、いいえ、お願いします」
キリエが力なく、その場に膝をついた。
涙を流しながら、夏樹たちに頭を下げた。
「なんでもしますから、私を帰して」
「――え? 今、なんでもするって」
「夏樹ぃ、今それを言う必要があったんかぁ!?」
「由良ぁ、どうしてお前は空気ぶち壊すこと言うんだぁ!?」
「待って、誤解だよ! キリエさんが必死でちょっと見ていられなかったら、小粋なジョークを挟んで場を和ませようとしただけであって、やましいことは何ひとつ考えてないからね!?」
小梅と千手に叱られて、手を振りながら誤解を解こうとする夏樹に、キリエが追い討ちするように声を絞り出した。
「望むなら、身体も差し出すから。お願い、します」
「ちょ、やめて! 俺が悪者になっちゃう! ていうか、ゴッドがうんって言ってくれるかどうかもわからないんだから、そんな期待されても困るといいますかなんといいますか」
「お願いします! 断られたって文句を言わないから、可能性があるのなら、お願いします!」
「――あんたたち、面倒臭いことになっているところ悪いけど、お客さんよ」
翼をはためかせ、花子が厳しい顔をして現れた。
「それなりに力を持った奴らが、五人。新たな神々じゃないわ……おそらく、夏樹たちと同じ異世界帰りの人間よ」




