間話「ツッコミ担当の業じゃね」③
――七森千手はまたしてもとある耳鼻咽喉科に足を運んでいた。
「どうやら、また――きてしまいましたね」
白衣を着た中年の医者が足を組み、どこか深刻な表情を浮かべて千手を出迎えた。
「雰囲気出さなくいいから、マジでツッコム気力がないくらい喉が痛いからなんとかしてくれ。そもそも、お前がまた来いって言っただろ」
「すみません、うちの主人が。でも、本当に痛いようでして」
虎童子が夫に寄りそう妻の如く、案じている。
そんな虎童子に医者が緊張気味に声をかけた。
「奥様、ご心配なく。ですが、七森さんがツッコミをしないとはだいぶ重症のようですね。――最悪手術の覚悟をしてください」
「――っ、はい!」
「いや、そこまでじゃねえだろ! そもそもツッコミの有無で手術とかありえねから! せめて喉の様子を見てから言えよ!」
「素晴らしいツッコミです。たくさん、練習しましたね」
「してねえよ!?」
「ええ、主人はいつもお風呂場で」
「してねえって言ってるだろ!? なんでお前らが組んで俺の喉にとどめ刺そうとしてるの!? 虎童子はさておき、お前は医者だろうが!」
(――これだから来たくなかったのに……くそっ、どこの医者もここに通っていると言ったらこの辺じゃ一番の名医ですよって、そうじゃねえだろ! 患者も一応は客なんだから来てくださいって言えよ!)
ツッコミをしたいが、割と限界だった。
処方された薬はよく効いてくれたが、それ以上にツッコんだ。
ツッコミまくった。
おかげで、喉がもういっぱいいっぱいだ。
元気いっぱいの由良夏樹から始まって、自身の父親、挙げ句の果てには帝国なんて組織まで現れやがった。
何か目に見えぬ意思が自分の喉を潰しにかかっているのではないかと最近は疑心暗鬼になってしまうこともあった。
「とにかく見てくれ。悪化しているかもしれない。ついでに言っておくが、またみーんとか言ったら温厚な千手さんも暴れるからな?」
「………………………はい、あーん」
「今の間は、なんだコラ!」
そう言いながら、千手は従って口を開けた。
「あー、これは腫れていますね。最近、喉の奥まで棒状の物を突っ込まれたりしませんでしたか?」
「されてねえよ!?」
「こう、なんといいますか、えぐいプレイの一環で、喉に負担をかけたり」
「してねえって言ってるだろ!? 意味がわからねえ……違う、説明してほしいんじゃない。嬉々として説明しようとするな。おい、後ろの看護師、あんただ、あんた! なに取り出そうとしていやがる、やめろ、その取り出そうとしているピンク色のものをしまえ。場合によっては警察よぶぞ!?」
「ただ腫れといってもそこまでひどくはありません。最初に来てくださった時よりも良くはなっていますよ。ただ少しだけぶり返してしまって痛みを感じちゃっていますね。どうしましょうか、痛み止め出しましょうか?」
「……さらっと診察に戻るなよ。いや、いいんだけどさ。痛み止めは頼む」
「わかりました。坐薬でいいですか? 他にも、坐薬か坐薬という選択肢もありますが」
「坐薬しかなくね!?」
「しばらくえぐいプレイは控えて欲しいので代わりに」
「変わりなんていらねえよ! 普通に飲む痛み止めを出してくれ!」
「――なるほど、七森さんは口移し派と」
「おい、待て、カルテに書くな。流暢なドイツ語で書かれると何書いてあるのかわからねえけど、書くなよ!」
「はははは!」
「笑って誤魔化すんじゃねえよ!」
「安心してください、書いてますん」
「どっちだよ! ベタなこと言いやがって!」
「もうダーリンたら、お医者様を困らせないの。めっ」
「俺が悪いのか!?」
不思議なことに、日常と同じくらい病院で突っ込んでいる気がした。
「他の患者さんに迷惑じゃん」
「あー、それは申し訳ない」
「いえいえ、構いません。本日、この時間帯は七森さんのための枠ですから。貸切ですよ」
「…………そりゃ、どうも」
「お薬は現状維持しつつ、痛み止めを出しておきますね。ツッコミ役の業とはいえ、ほどほどに」
「じゃあ、ツッコませないでくれ!」
「それでは、お大事に。また一週間後に来てくださいね」
「わかったよ。どうも」
一応はお辞儀をして千手が診察室を出ようとすると、背中に声をかけられる。
「――森山田耳鼻咽喉科は七森さんをいつでもお待ちしています」
「森山田一族かよ!?」




