87「ちゃんと事情があるんじゃね?」②
篠原キリエは、家族を心底嫌っている。
その理由はひとつ年上の姉にある。
姉は、病弱で健康であるキリエに対してコンプレックスを持っていた。
そんな姉を、両親が全力で庇う、そんな歪んだ家族の中で息苦しい日々を送っていた。
姉は二言目には「キリエと違って私はっ!」と嘆き、両親は「もっとお姉ちゃんのことを考えなさい!」と言うのだ。
姉が病弱だから、部活も禁止、習い事も禁止、友人と遊ぶのも禁止。
高校も姉と同じ高校でなければ進学させないと理不尽なことを言われた。
キリエから見た姉は、病弱ではない。
ただ、怠惰でわがままなだけだ。
確かに昔は身体が弱く、季節の替わりに目にはよく熱を出して寝込んでいた。
そんな姉を幼い頃のキリエは心配していたし、姉も両親も普通だった。
しかし、姉は成長していくと変わってしまった。
いつの間にか「病弱な自分が大好き」になってしまったのだ。
医者からは「元気になりましたね」と言われたのに、本人はまだ具合が悪いと言う。熱が出た、身体が痛いと言っては病院に行くのだ。
一度、肉体面ではなく精神面ではないかと言われたことをきっかけに、「心無いことを言われたくないから医者には二度と行きたくない」と泣き喚いた。
両親は、そんな姉を懸命に面倒を見て、甘やかした。「病弱な娘に献身的な私」に酔っているのがキリエには見て取れた。
キリエはそんな家族を冷めた目で見ていた。
御涙頂戴ものを無理やり見せられている気分になり、不快でもあった。
それでも、気にせず自分のすべきことをしていたが、中学に上がると同時に行動に制限がついた。
両親曰く、「お姉ちゃんができないことはしてはいけない。妹なんだから、お姉ちゃんを悲しませないで」ということらしい。
意味がわからなかった。
姉は、面倒だから勉強をしない。
苦手だから運動はしたくない。
性格が悪いから友人がいない。
言い出したら切りがないのだが、自分で「しない」と選択したことをすべて「病弱だからできない」と言うのだ。
そしてなぜか両親がそれを信じて悲しみ、慰め、甘やかす。その繰り返し。
勝手にやっていればいいと思っていたが、怠惰な姉のせいで自分の行動に制限がつくことは納得できなかった。
理不尽であると訴えたキリエを、母は殴り飛ばした。
初めて親に殴られたキリエの衝撃は大きかった。
それ以上に、信じられなかったのは、殴られたキリエを見て姉が笑っていたことだ。
キリエは家族を、憎んだ。
例外だったのは、少し離れたところに住んでいる祖父母だけ。
祖父母は両親を厳しく叱責し、姉にも注意してくれるが、その時だけ殊勝な態度を取るもすぐに元通り。その繰り返しだ。
結局、キリエの生活は何も変わらない。
そんな折、隣の家に住む幼馴染みの少年が姉に奪われた。
親に内緒で交際していた彼が、ある日、烈火の如く怒りを露わにした。
怒り狂う彼は、キリエが姉を虐げているのだと言う。以前から姉に相談されていたのだとよくわからないことを叫んだ。
彼は、性格の歪んだキリエではなく、姉を守っていくと決意し、交際宣言をした。両親は涙を流して祝福した。
まるで自分に起きたことが理解できなかった。
キリエの不幸は続く。
同じ高校である姉が、学校内であることないことを言っていたようだ。
病弱な姉を虐げて彼氏を奪われた哀れな女として、キリエは馬鹿にされ、心ない言葉を浴びせられた。
友人を失い、会ったこともない姉の友人から暴力を受けた。
キリエは限界だった。
もう死んでしまおうとさえ考えていた。
当てつけに迷惑がかかる形で死のうと、死に方を模索していたところ、異世界に勇者として召喚された。




