86「ちゃんと事情があるんじゃね?」①
夏樹はアイテムボックスから自分と小梅、そして滝の分のアウトドアチェアを出すと、腰を下ろしありすから話を聞いた。
「つまり、百合園ありすさんは異世界で勇者やって帰ってきて、こっちで平穏な生活を送ろうとしたら「新たな神々」に目をつけられたから、互助会の「帝国」に入ったけど、実際は「帝国」の思想がなんかやばかったから、何人か仲間を引き入れて抜けて「帝国二代目」を作り直したってことね。でも、「帝国」と「新たな神々」にどっちにつくか決めろって言われて切羽詰まったから向島市で一番の紳士と名高いこのギャラクシー河童勇者由良夏樹に助けを求めにきた、と」
「……一部、ちょととよくわかりませんが、概ねあっておりますわ」
「つまり、月読ファミリーに加入したい、と」
「……月読ファミリーの詳細は存じ上げないのですが、庇護下に入れていただけるのであれば、お願いしたいのです」
「ほほう」
足を組んだ夏樹は、倉庫の中にいた黒猫を捕まえて撫でる。
「で、あそこでびくんびくんしている三人と、そっちのピアスいっぱいあけたお姉さんは裏切ったと」
「私は裏切ってない! ただありすさんを利用していただけよ!」
「……利用していたことを恥ずかしくもなく大きな声で言える人、なっちゃん嫌いじゃないです」
むしろ利用していながら「利用するつもりなんてありませんでした!」なんて言う人間より好感度は高い。
もっとも、そんなことを言っていたら、今頃両断されていただろう。
「というか! あんた! ぎゃ……なんとか河童! あんたも私に自分の力を使って好き勝手やるなって言うつもり?」
「え? 言わないけど? なんで?」
「――え?」
「え?」
「…………そこは言いなさいよ!」
「よくわからないけど理不尽なこと言われた気がする!」
キリエは感情を持て余して震えていた。
夏樹にはその理由はわからないので、不思議だ。
なぜ彼女の力を使う使わないかを夏樹がいちいち言わなければいけないのか。
「私はっ、親とクラスメイトを殺したいの!」
「すればいいじゃん」
「だからなんでよ!?」
「なにこれ!? どういうこと!? したいならすればいいって言っているのに、なんで文句言われているの!?」
「倫理的にとか、人としての一線をとか綺麗事言わないの!?」
「……えっと、言って欲しいの?」
「欲しくないわよ!」
「面倒臭えな、この人! あのね、殺したければ殺せばいいじゃない。俺は異世界でそうしてきたし、この世界でもそうしているから。たださ、一般人を意味なく殺したら、普通に捕まるよ? 警察にも裏の対応をするところがあるし、「院」って言う霊能力者の組織もあるし、そもそも向島市に土地神や管理する家がいるから」
「……そうなの?」
「そうなの」
「じゃあ、私の勇者の力を使ったらバレちゃうの?」
「多分バレるね」
「……そんな」
銀子のように人知れず霊能関係に関わる警察官もいる。
人をひとり殺せば問題になる。
もしもこの世界にファンタジーもなにもなければバレないかもしれないが、残念ながら異世界に負けないくらいファンタジーに溢れている以上、異世界帰りの勇者の力であっても人を殺せばバレるだろう。
「そもそもどうして家族やクラスメイトを八つ裂きにして生きているのが苦痛で殺してくれって自分から言わせたいわけ?」
「私、そんな残酷するなんて一言も言っていないんだけど!?」
「え? 残酷?」
「えぇぇ、なにこの子、こわい。普通にこわい。あれ? やばくないこの子?」
「話が進まんじゃろう! キリエじゃったな、こちらのギャラクシー河童勇者は異世界に召喚される前からちょっと言動が愉快なんじゃ! これくらいのことでいちいち動揺しとったら話が進んからスルーせんかい!」
夏樹はいつも通りなのだが、キリエはついていけなかったようで戸惑っている。
そのせいで話がグダグダになって進ない。
痺れを切らした小梅が間に入り、話を進めさせようとする。
その時、ありすがゆっくりだが、決意のこもった声をキリエにかけた。
「思えば、わたくしはキリエさんのことを何も知りませんでした。今更、と思うかも知れませんが、あなたのことを教えてくれませんか? どうして、ご家族とクラスメイトを手にかけたいと思うほど追い詰められているのですか?」




