84「月読先生もイベントのようです」
休日の月読命の朝は遅い。
毎日遅くまで仕事をしているため、できるだけ土日は寝て過ごそうと決めている。
昔は生徒の数が多く仕事量も多かったが、現在も生徒の数は減ったものの仕事量は変わらない。むしろ、増えている。
神であっても疲れるため、休日にはゆっくり身体を休めているのだ。
それでなくとも、学校では問題児がやんちゃをするので普通の教師以上の疲労があるのだから。
「……よく寝ました。時間は、昼前ですか」
目覚めた月読は時計を確認すると、すぐに動き出す。
二度寝や、ベッドの中に無駄にいることはしない。
その方が疲れが取れないと長い経験で学んだからだ。
「昼は久しぶりに外食にしましょう。なんだったら夕食も気になるところがあるのでそこへ行くのもいいですね」
起き上がった月読は、洗面所で顔を洗い、歯を磨く。
常温のミネラルウォーターを飲み、まだ昼食まで時間があるので簡単にスムージーを作って飲んだ。
洗い流しをしてから、パソコンの前で座りメールチェックをしていると、同僚であり友人である権藤先生から電話がかかってきたので応じた。
「お疲れ様です、権藤先生。今日は奥様とデートではありませんでしたか?」
「お疲れ様です。妻とは、はい。お恥ずかしながら、デートしているのですが、ちょっと無視できないものを見てしまったのでせっかくのお休みですが月読先生にお伝えしておいた方がいいと思いまして」
「なにかありましたか?」
同僚である権藤は霊能関係者ではないが、裏側を知っている人間だ。
同時に、月読の正体を知る稀有な人間である。
権藤は、月読が神であることを知りながら態度を変えずにひとりの良き友として教師として接してくれる貴重な存在だった。
そんな権藤が、神妙な声で言い辛そうにしていると何かあったのだと寝起きの頭でもわかった。
「とても言いにくいのですが……由良がおばあさんを背負って爆走していました」
「………………はい? あの、申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただいてもいいですか?」
「……由良夏樹が、なぜかおばあさんを背負って道路を爆走していました」
「………………我が校の由良夏樹くんが?」
「はい」
「………………自分のことをギャラクシー河童勇者とか言っちゃう夏樹くんが?」
「……はい」
「………………この一ヶ月で良くも悪くも大暴れしている夏樹くんがですか?」
「月読先生、残念ですが、その由良です」
月読は大きく深呼吸をした。
冷蔵庫から冷たい炭酸水を取り出し、コップに注ぎ飲み干す。
少し、落ち着きを取り戻した。
「――つまり、誘拐をしていると?」
「いえ、さすがに由良がおばあさんを誘拐することはないでしょうが、何かまた厄介ごとに首を突っ込んだといいますか、全身を突っ込んだといいますか……もしかしたら困っているおばあさんを助けただけなのかもしれませんが……」
月読と権藤は夏樹が悪人ではないと知っている。
大きな力を持っていても悪いことをしないと信じている。
だが、善意でとても迷惑なことをしでかすことも知っている。
そもそもおばあさんを背負って爆走している姿が、まず月読には想像できなかった。
「……ちょうど暇をしていたので夏樹くんのところに行ってみます」
「せっかくの休みなのにすみません」
「いえ、お気になさらずに。権藤先生は、奥様とのデートを楽しんでください。はい、はい、では、ええ、また月曜日に」
通話を切った月読は、大きく、とても大きくため息をついた。
「あれだけイベントばかりで疲れると言っていた割に、休日もしっかりイベントに巻き込まれているのはお約束なのでしょうね」
気づけば自分までイベントに巻き込まれていることに気づいた月読は、もしかしてこんな日がずっと続くんじゃないかと震えた。




