83「お婆ちゃんはいつでも優しんじゃね?」①
「いやぁ、まいったまいった! 全力ダッシュって急に止まれないんだよね。首なしライダーのケヴィンと全力ダッシュ勝負して酷い目に遭ったばかりなのにすっかり忘れていたよ」
服についた砂埃を払いながら、夏樹はしゃがんで背負っていた老婆をそっと下ろした。
「ありがとうね、夏樹ちゃん」
「気にしないでよ。俺はお年寄りには優しい系勇者だから」
「あらあら、じゃあ、お礼にこれをどうぞ」
「わーい、飴だー! ありがとうございます!」
老婆は夏樹にお礼をいうと、ポーチから飴を取り出して渡す。
夏樹は喜んで飴を口の中に放り込むと感謝の言葉を述べた。
「いやいやいやいやいや! そのおばあちゃんはどこのおばあちゃんじゃ!?」
「滝さん家のおばあちゃんだよ!」
「どこのどなたじゃ滝さんって!?」
小梅が夏樹に詰め寄ると、滝さんと呼ばれた老女が小梅にも飴を差し出した。
「あらあら、可愛い子ね。飴どうぞ?」
「あ、ありがとうございます、なのじゃ。……うむ、うまい! なんじゃろう、昔、どこのご家庭でもあった懐かしい飴の味じゃ」
もごもごと小梅と夏樹が飴を味わっていると、ありすが大きな声をあげた。
「――滝さん! 滝さんじゃありませんか!」
はて、と小梅が首を傾げる。
ありすは小走りに滝に駆け寄るも、キリエが自分を利用していたこと、他の人間が裏切っていたことを思い出して、途中で足を止めてしまった。
「あらあら、ありすちゃん。ごめんなさいね、ここにこようと思ったのだけど、タクシーが捕まらなくて困っていたの。そんな時に、夏樹ちゃんが声をかけてくれて、聞けば同じくここを目指していると言うじゃない。だからね、おんぶして連れてきてもらったのよ。ふふふ、おんぶされたのなんて久しぶりだわ。ありすちゃんには話したかしら、死んだ夫が口数の少ない人だったのだけど、いざというときは男らしい人でね。出かけると何も言わずに送り迎えしてくれるのよ。一緒にお出かけしましょうと言っても、良い返事をしてくれないのに。どうして男の人って素直じゃないのかしらね。あ、ごめんなさい。ついお喋りしちゃったわ。歳をとると話が長くなってしまうのよねぇ」
「た、滝さん」
「言っておくけど、滝さんは何も関係ないから」
躊躇いがちのありすに、キリエが告げた。
「私はあんたを利用していたし、こいつらはあんたを裏切ったけど、滝さんは何も関係ないわ。それだけは本当だから」
「……キリエさん」
「あらあら、キリエちゃんったらありすちゃんに悪いことしていたから、おばあちゃんは何度も注意したのだけど……もしかして、おばあちゃんが余計なことを言ったから、引っ込みがつかなくなっちゃったのかしら? ありすちゃん、おばあちゃんからも謝るわ。キリエちゃんのご家庭はね、その、私が言うことではないのだけど……」
「いいよ、滝さん! もう全部バレてるから」
「……そうなのね」
滝は悲しげな顔をした。
ぼりぼりと飴を噛み砕いな小梅が我慢できずに、大声で尋ねた。
「いい加減、このおばあちゃんが何もんか説明せい!」
おおよその予想はできているが、事実確認をしたい小梅の訴えに、ありすが答えた。
「こちらの方は、滝こずえさんです。お察しかもしれませんが、「帝国」のひとりです」
「私は勇者なんてたいそうなものじゃないのよ? ちょっとこことは違う別の世界で、王様の相談役をしていただけなの、うふふふふ」
すうっ、と小梅が大きく息を吸い、叫んだ。
「なんでもありじゃな、異世界ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」




