40「大人になると人生をやり直したくなるのは不思議じゃね?」①
綾川杏は、向島市の夜風を浴びながら河川敷を歩いて自宅に向かって歩いていた。
結局、七森家での話は、「帝国」という新たな勢力が現れたこと、虎童子のような人ではない存在を狙っていること、新たな神々に利用される前に自衛するため千手のような力を持つ者たちを勧誘していることを伝えられるも、現状では特に何かできるわけではないので解散となった。
つい先ほどまで一登と一緒に帰っていたが、ちょっとだけ寄り道をしたくてひとりで歩いている。
「――今日は楽しかったなぁ。ううん、最近、とっても楽しい」
一度は心から慕っていた夏樹を毛嫌いするようになってしまってからまともに会話などしたことはなかった。
その数年の間、一度として「楽しい」と思ったことはあっただろうか。
――ない。
しかし、異世界から帰ってきて、夏樹と春子たちと和解でき、関係を再構築し始めてまだ数日だが、その毎日が楽しくて、愛おしい。
父との関係も大きく変わっている。
会話が増えて、笑えるようになった。
学校での時間や、夏樹と一登と一緒にいる時のことを話せる範囲で伝えると喜んでくれた。
その時の父の顔を生涯忘れることはできないだろう。
「……杏は難しいことはわからないけど、お兄ちゃんたちとみんなの今の時間を守るために……戦うもん」
杏の決意は固かった。
見放すこともできたのに、突き放すこともできたのに、放っておくことだってできたのに、助けてくれたみんなと一緒に戦いたかった。
「――健気だね、綾川杏ちゃん」
ぞくり、とした。
時間帯の関係か、河川敷には杏以外に人はいなかった。
だと言うのに、耳元で声をかけられ、杏は反射的に大きく跳んで距離をとってしまった。
「――誰!?」
「やあ、僕は門の神だよ。君のお兄ちゃんに……血の繋がりはないんだよね? まあいいや。とにかくお兄ちゃんに殺された門の神のせいで、のんびり暮らしていたところを二代目門の神として新たな神々のために日夜働かされているかわいそうな神なんだよ」
どこかふざけた口調で自己紹介めいたことを口にしたのは、杏とそう歳が変わらない外見をした少年だった。
しかし、杏にはわかる。
新たな神々を名乗るだけあって、強い力を感じ取れた。
だが、その力は歪みを持ち、どこか禍々しさを持っている。
お世辞にも神とは言えそうもなかった。
「……杏に何の用?」
「あらら、もしかして警戒されちゃっていたりするのかな? いやだなぁ、新たな神々だからってすべてがチーム月読の敵じゃないって。ま、僕は敵だけどさ」
杏は身構えた。
アイテムボックスから夏樹から譲り受けた魔剣を引き抜く。
「ちょちょちょ、一応君だって女神アテーナーに選ばれた勇者なんだから、あれ、そもそも違うのか。君は……まあいいや。とにかく僕は敵だけど、君とはまだ戦うつもりはないんだ」
「じゃあ、なに?」
「――君のために特別な門を用意したんだ! 仲間になれとは言わないよ。裏切れとも言わないさ。ただね、僕は善意から、君を過去に戻す門を潜って欲しいんだ。何年もクズに苦しめられた君に、やり直すチャンスを与えたいんだ!」




