41「大人になると人生をやり直したくなるのは不思議じゃね?」②
「……どういう、意味? 杏、あなたの言っていることが全然わからない」
「あれ? 難しかったかな? じゃあ、君のような子でもわかるようにちゃーんと噛み砕いて教えてあげるね」
門の神を名乗った少年は、何がおもしろいのかケラケラ笑う。
「杏ちゃんって、ほら、何もかも手に入れたと思っていたクズによって杏ちゃんはかわいそうな日々を送ったじゃない。その救済をしてあげたいって常々思っていたんだ! 僕って一応神様だからかわいそうな子って放っておけないんだよね」
「……馴れ馴れしく杏のこと呼ばないで」
「ははははははは! 気にするところそこ!? なんていうか、頭の中がお花畑なんだねぇ。僕がわざわざこうして杏ちゃんの目の前に姿を現して救済をしてあげたいと言っているのに……もしかして、お馬鹿さんなのかな?」
杏が唇を噛んだが、襲いかかることはしない。
門の神の目的をちゃんと知るために話を聞こうと我慢していた。
「まあいいや。とにかく、僕は杏ちゃんのために――『過去に戻る門』を用意したんだ!」
「…………え?」
「あー、ようやくちゃんとしたリアクションとってくれたねぇ。うんうん、準備した甲斐があったよ。杏ちゃんさえ望めば、今すぐにでも、過去に戻してあげる。僕の力はほぼほぼなくなっちゃうんだけど、門の神として杏ちゃんを救うためなら大した代償じゃないさ」
「………………いらない」
「うん?」
門の神は怪訝な顔をした。
「あれ? 聞き間違いかな?」
「いらない! 杏は救済なんていらない!」
「…………おっと、これは想定外だぞ。杏ちゃんなら何も考えずに飛びついてくれると思っていたんだ。もしかして、信じてもらっていない? 言っておくけど、前任の門の神と僕は別物だよ? あいつは色々な世界を行き来してやりたい放題をしていたし、調子に乗って神として覚醒だかなんだかして格を上げようとしていたけど、僕ってそういうの興味ないんだよ」
「杏、そんな話どうでもいい。救済もいらない!」
「うーん、僕の説明が足りてないのかな? あのね、君が三原優斗に出会うよりも前に戻してあげると言っているんだよ?」
「――っ」
頭ごなしの否定をしなかった杏に、門の神は笑みを深め、一歩近づいた。
「杏ちゃんの意識も感情も記憶もそのままに、楽しかった子供の頃に送ってあげる。今の杏ちゃんならあんなクズに魅了されることはないから、由良夏樹ととっても良い関係ができるよ? 彼が力を持たないように導き、君がずっと大切に宝物のように守って独り占めすることができる。そんな時間を提供したいんだけど、僕の善意は伝わったかな?」
「……そんなことをしてあなたにどんなメリットがあるの?」
「あるとも! 杏ちゃんは杏ちゃんで厄介なんだよね。前任の予定では、異世界で杏ちゃんをぐちゃぐちゃに酷い目に合わせて勇者として覚醒させて、駒にする予定だったんだけど、ガープやアマイモンたちに邪魔されちゃったからねぇ。ほら、君ってアテーナーやフン・フナフプ、ベヒモスに可愛がられているじゃないか。これからの戦いに、そいつらが勢揃いされても困るから、過去に戻ってほしいなーって」
「じゃあ、なおさら断るから!」
杏が幾度となく過去に戻りたいと思い泣いたことがある。
三原優斗の影響下にある時から、ふいに昔に戻りたいと思ったことも何度もあった。
今だってそうだ。
これからも繰り返し「やり直せたら」と思い続けてしまうかもしれない。
それでも、今を一生懸命生きると決めた。それが、杏の償いであるからだ。
「杏は、絶対に、過去になんて戻らない!」




