38「外国の言葉って無駄にかっこよくね?」
「やばくね? 帝国とか考えちゃうあたり、異世界帰りの厨二病拗らせた感じが一周回ってかっこよくね!?」
「うわぁ、なんかうわぁ」
「だっさい! ださいよ! せめて帝国をドイツ語でライヒと読むか、あえて帝国と書いてドゥンケルハイトって呼んで欲しいかも!」
「ちょちょちょ、杏さん、杏さんや。なんでもドイツ語にすればいいってもんじゃないからね? そりゃかっこいいけど、なんで帝国を暗黒って読むの? せめてシュテルンスネッペとかでしょう!」
「……お兄ちゃん、いくらお兄ちゃんでも帝国と書いて流れ星はダサいよ! ダサすぎるよ!」
「なんだとぉ! じゃあメテオーア!」
「結局、流れ星じゃん! さすがにダサいのは譲れないもん! ブラックフォレスト!」
「黒い森は散々使われてるじゃないですかー、やだー!」
「あえてわかりやすくするのが親切心なんだもん!」
「ぐるるるるるるる」
「がるるるるるるる」
帝国の呼び名ひとつで唸りあう夏樹と杏を見て、全員が大きくため息をついた。
「よくもまあポンポンとドイツの単語が出てくるというか、意味がわかるな! 中学生の必須科目だったか!?」
「えーっと、まあ、ある種の中学生には必須科目といいますかなんといいますか」
一登も中学二年生だ。
無駄に外国語を調べたり、海外のバンドを聞き齧ったりしているが、夏樹と杏ほどの感性はない。
「なんというか、由良も綾川も血のつながらねえ兄妹だったっていうのは嘘みたいに脳の作りが同じだな。俺の知らないドイツっぽい言葉で話し始めたぞ? なんでドイツ語で喧嘩できるんだよ。おかしいだろ、この兄妹」
「ははは、幼少期から関係が拗れていなかったら、もっと凄いことになっていたかもしれません」
一登は、夏樹と杏の関係を嘆けばいいのかホッとすればいいのか悩んでしまった。
「僕的に、ドイツ語は嫌いではありませんがラテン語の方が好ましく思っています」
「……五歳児の口からラテン語とか初めて聞いたわ」
「俺もです」
「俺もまさか甥の口からラテン語という単語を聞くことになるとは思わなかった」
「ははは、幼稚園で少しだけ齧っただけですのでさすがに会話はできませんよ」
「ラテン語で会話されても何もわからねえから! 何度も思うけど、義政先生の幼稚園って合法か!? 神無、お前も伯父なら一度ちゃんと合法なことを教えているのかどうか確かめろ!」
「……それが、いつもやんわり断られてしまって」
「怪しすぎる!」
夏樹と杏もだが、義政も大概だ。
突発的に反応に困ることを言うので、対処に困る。
五歳児の冗談と笑って聞き流すには、なかなか無理があった。
そうこうしている内に、夏樹と杏が肩を組んで満足したような顔をしていた。
「千手さん!」
「決定しました!」
「帝国は――」
「ヴァルトライゼに決定です!」
ドヤ顔をするふたりに、千手は頭痛を覚えた。
意味がわからないのでツッコミようがない。
だが、面倒くさそうなふたりがこれでもかというくらいな満足げな顔をしているのだ。
よほど良い言葉なのだろう。
「ふむ。確か、ドイツ語で世界旅行でしたか?」
義政が「ヴァルトライゼ」の意味を伝えると、さすがに千手も突っ込まずにはいられなかった。
「なんで異世界帰りの勇者や能力者を集めた組織が帝国と書いて世界旅行なんだよ! お前ら、絶対に名前の響きで決めただろ! 俺たちみたいにわからない奴らが聞いたら、ふーん、で終わるが、ドイツの方々に聞かれたらしばかれるぞ!? ちょっと、そこに正座しろ。ふざけている奴はお説教だ!」
「そんな、千手さん!」
「杏たちふざけてないもん!」
「なお悪いわ!」
――千手のお説教は三十分ほど続いた。




