間話「教師と生徒ってなんか響きがよくね?」
――向島市立第一中学校の職員室。
学校の神こと萌乃萌葱は、青春の神こと青春すみれを呼び出していた。
「……今日、なんで呼び出されたのかわかっているな?」
「全然わからないんだけど……」
「月読ファミリーの新参者の分際で、私よりも出番が多いとは何事だ!」
「知らないわよ!?」
職員室の奥の部屋で、萌葱はお怒りだった。
「ヒロインの私を差し置いて、由良夏樹に下着を見せた挙句膝枕とは……いい根性をしているではないか」
「……あんたヒロインっていうか色物キャラじゃない」
「――月読先生、こんなことを言うのだぞ! 叱ってやってくれ!」
「申し訳ありませんが、巻き込まないでくれませんか? あと夏樹くんにも言いましたけど、月読ファミリーって言うのをやめてください。私が一番悪いみたいに聞こえるじゃありませんか」
眉間を揉みながらコーヒーを飲む月読に、萌葱とすみれがこてんと首を傾げた。
「……なぜ首を傾げるのでしょうか? 私、難しいこと言いましたか?」
「いや、なんだ、月読先生は由良夏樹たちをまとめる神。いわば上司のような存在ではないか」
「つまり部下の責任は上司よね。えっと、ツッコミ待ちってこと?」
「言っておきますが、私は夏樹くんたちの上司ではありません! 責任に関しては取らなければいけないんでしょうけど……そのあたりはうまくやります」
月読は夏樹たちの上司ではないが、教師ではある。
何かあった場合の責任は取らなければならないと覚悟はしている。
できれば、夏樹には問題を起こさないでもらいたいと切に願っているが、何かとトラブルの方から夏樹に近づいていることは知っているので、身を守ることを優先にしてほしいとは思っている。
だた、夏樹の暴れっぷりに、長い時間をかけていたいくつかの計画が軌道修正を必要としたり、「おじゃん」になっていたりもするので気苦労は多い。
「やはり月読ファミリーでいいではないか」
「聞こえが悪いじゃないですか。私が首謀者みたいに聞こえてしまいますよ。なぜ夏樹くんは由良ファミリーにしないんでしょうか」
「月読先生を立てているのだと思うが」
「その気遣いは必要ありませんから……本当に……」
「ええいっ、今はそのことはどうでもいい! それよりも、月読先生! 青春の神が新参者のくせにでしゃばるのだ! このままだと卒業式の日に伝説の木の下での告白が奪われてしまう!」
「奪わないわよ!」
「……あの、萌葱先生。私はずっと疑問だったのですが……卒業式の日に伝説の木の下での告白があるかどうかは別としてなぜ教師にこだわったのでしょうか?」
「――んん?」
「いえ、生徒同士のほうが交流を深められるはずなので、別に教師にこだわらずとも生徒になって伝説の木の下で告白されるという選択肢もあったのではないでしょうか?」
「――笑止千万っ!」
「久しぶりに聞きましたよ、笑止千万なんて」
「月読先生、あなたは甘い! まるでキャンディだ! 教師だからこそ、生徒から告白されるのが一大イベントではないか! 生徒同士だとよくある青春の一ページに過ぎない! 月読先生だって、私と同じ志を持つはず!」
「……そっか、月読先生は学校の神と同じかぁ」
「違います!」
「隠すことはない。月読先生も、生徒といけない関係になるために教師になったのだろう?」
「――さすがに張り倒しますよ!? 私が教師になったのは生徒を導くためです! あなたのような不埒が理由はありません!」
「ば、バカな、それではまるで先生のようだ」
「先生ですけど!? あなたは私をなんだと思っているのですか!?」
――後に月読は語った。
――どんな問題児を相手にするよりも、萌葱ひとりを相手にするほうが疲れる、と。




