33「ファンタジーな人もいるんじゃね?」
――向島市の三大悪夢。
向島市に暮らす者ならば、誰もが知る言葉だ。
関わったら人生が変わるレベルでやばい、と言われている三人を指す言葉だった。
対して、向島市の四大天使という関わったら人生が変わるレベルで善人な人もいる。
奇しくも、向島市の三代悪夢の頂点由良夏樹の母親由良春子と、その幼馴染みにして親友の三原一登が向島市の四大天使に数えられている。
ちなみに、一登の兄三原優斗は三大悪夢にノミネートされたことはない。
彼は一部の人間から恐ろしいほど好感を抱かれているが、それ以外には「ただのクズ」扱いされていた。
三大悪夢と聞くと恐ろしいイメージがあるが、ある程度向島市民に愛されていなければ選ばれないのだ。
(でも、まさかなまはげ先輩が普通に会話できるレベルで理性的だとは思わなかった)
桐木霧子は生まれも育ちも向島市だ。
歳の離れた妹が喘息のため数年、母方の実家で療養していたので長期の休みにそちらに行くことはあったが、基本的に向島市で暮らしていた。
そのため向島市の三大悪夢のことはよく知っていた。
特に、三大悪夢筆頭の由良夏樹は、過去にしつこいナンパから助けてもらったことがある。
ただし、素行の悪そうな高校生がナンパしてきたと思ったら、次の瞬間、川に投げ捨てられる瞬間を目撃するとは思わなかった。今まで生きてきてこれほどの衝撃はなかったと思う。
他にも逸話は数多いが、「少々やりすぎ」であることもあるが、理不尽なことはせず、弱者の味方であることから好感度は割と高い。
ただ、自称幼馴染みを名乗りながら、夏樹のことをこき下ろしては鼻息荒くしている気持ち悪い少年がついて回るので積極的に関わろうとする者は少なかった。
(一登きゅんが前より自然に笑うようになって、綾川が良い意味で変わったと思ったら、なまはげ先輩もなんか変わったかな)
もともと一登はちょっとやんちゃな外見をしているが、反して中身は善行の塊なので慕う子は多い。
最近では、笑顔に影がなくなり後光が差していると言われるようになり、女子だけではなく男子も拝んでしまうこともある。
向島市民の疑問のひとつに、なぜ三大悪夢筆頭と四大天使が親友なのかという話題がよく上がっていたが、ふたりが一緒にいるときは自然体であることを桐木たちは知っている。
どちらもお互いを信頼し、想い合っている。
家族であり、兄弟であり、親友なのだ。
(綾川もなまはげ先輩と一登きゅんと一緒にいて、いい顔をするようになったから、割と安心していたんだよね)
杏のことを嫌う人間は多いが、同じくらい心配もしていた。
死者を悪く言いたくないが、控えめに言って「クズ」な人間にいいように遊ばれているのは周囲から見れば明らかであり、友人ではなくとも何度も関係を改めた方がいいと声をかけたクラスメイトは多い。
そんなクラスメイトたちに、杏は今までの謝罪と感謝を伝え、関係は良きものとなっている。
まだクラスメイト以上にはなっていないが、友人となっていくには時間の問題だろうと思う。
(……妹にもなまはげ先輩たちと関わらない方がいいって最初は言ったんだけど、頑張って話しかけた甲斐があったかもね)
まだ妹が会いたいという少年とは会っていないが、思いの外話が進んでいくので感謝していた。
(――そういえば)
他にも向島市の三大悪夢に出会ったことを思い出す。
その日は、暑い夏の日だった。
ジリジリと太陽が照らす午後の商店街で、「今、ここにショタエルフいませんでしたか!?」と大きな声を桐木に尋ねてきた女性がいた。
反射的に「ひぇ」と変な声が出てしまったのは言うまでもない。
そんな彼女を優しげな青年が「まあまあ」と止めてくれてほっとしたものに、急に「君は人間とみせかけて獣耳を持つ人外っ子だったりしないかい? 落ち着いて欲しい。僕たちは怪しいものじゃないんだ。ただ、清い心で人外っ子を探し彷徨う人生の探究者なんだ」と暑さのせいで脳が茹だったのではないかと思えることを言ってきた。
桐木は逃げた。全力で逃げた。
――これが、向島市の三大悪夢、彷徨える人外っ子探究者佐渡祐介とのファーストコンタクトだった。
本編ですが、間話みたいなお話でした。
桐木さん視点で、ちょっとなっちゃんたちのお話を。
そして、ご要望が多かった向島市の三大悪夢のふたりめをはっきりさせました。
基本的に、三大悪夢も四大天使も、一年に一回有権者が集まって決める称号です。
なっちゃんと春子さんはそろそろ殿堂入りでいいんじゃないかと協議中です。
千手さん「いやいや、普通におかしいだろう! というか、やっぱり佐渡だったな! むしろ予想があたってほっとしてまでいるんだけどな! むしろ、佐渡が入ってなかったらまだやべー奴がいるのかって心配になるんだけど! つーか、ノミネートとか有識者ってなんだよ! 向島市そのものがおかしいだろ! というか、最後の三大悪夢誰だよ!? 絶対に俺の知り合いだぜ! 違ってたらなんでもしてやるよ!」
とらぴー「今、ダーリンがなんでもしたいって」
千手さん「都合よく受け取ってんじゃねえよ!」
シリアス先輩「――Ag」
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