32「初恋は甘酸っぱくてほろ苦いんじゃね?」②
「――まさか義政先生にお会いしたい女性がいるとは……なかなか隅に置けませんなぁ」
「……なまはげ先輩、うちの妹五歳だから。ていうか、なまはげ先輩っていつもこんなボケてるの? もっと修羅と殺戮が友達みたいな人だと思っていたんだけど」
一通りの事情を聞いた夏樹は、にまにました顔をしながら一登、杏、桐木と一緒に帰路についていた。
桐木の妹が義政に会いたいというのは、恋の予感しかしない。
叔父に当たる神無征四郎が一回り年下の少女とラブコメしているので、甥の義政もラブコメ体質であってもおかしくない。
「えっと、うん、夏樹くんはいつもこんな感じだよ」
「そうだよね。いつも愉快だよ」
「愉快って……まあ、このくらいの方が私も変に緊張しなくていいけど。向島市の三大悪夢なんて言われているから、どれだけ恐ろしいやつかと思っていたんだけど……」
向島市の三大悪夢は、個性的な人間が多い向島市の中でも上位三名に送られる「やべえ奴」の称号である。
もちろん、不名誉な称号だ。
対になっているのが向島市の四大天使だ。
その中に、三大悪夢の筆頭と謳われる由良夏樹の母由良春子と親友の三原一登がいるのはどんな皮肉だろうか。
「夏樹くんは確かにやんちゃだけど、噂ほどじゃないよ」
「だよね。やっぱり、呪いの家を燃やしたり、やばい人たちの事務所を壊滅させたり、親父狩り狩りしたりなんて普通はしないもんね」
「……ノーコメントです」
「杏もノーコメントです」
「…………もうやってるって言ってるじゃん! やべえよ、舐めた口聞いちゃったよ。あー、私は明日には鳴門海峡に沈められているんだ……」
「どうして鳴門海峡なのかわからないけど、夏樹くんは基本は優しいから大丈夫だって」
「そうそう! 杏もいろいろやらかしちゃったけど、関係再構築してくれているし!」
「綾川に言われると説得力あるわぁ。あれだけこき下ろしていた相手とよく仲良くできるなって、正直思っているけど、ま、いろいろあんるだろうけどさ」
「……う、うん、いろいろあったの」
面と向かってはっきり言う桐木であるが、あまり嫌味はない。
むしろ、杏としてはショックは受けるが、はっきり言ってくれる方が気が楽だ。
最近、話し始めたクラスメイトの中には気遣って、言葉を選んでくれる子が多い。そのことに関しては素直にありがたいと思っているが、桐木のように遠慮なく言ってくれる方が嬉しいこともある。
「ねえねえ、征四郎さんに連絡したらちょうどよく近くにいるって! あ、保護者同伴でも良い?」
「むしろ、五歳児と会うのに保護者同伴じゃない方がだめじゃん」
「……中の人を計算すればきっと成人しているはずなんだけど」
「なまはげ先輩が何を言っているのか全然わかんない!」
「……これがジェネレーションギャップか」
「たぶん使い方違くね?」
夏樹と桐木のやりとりを見ていた一登は「あ、千手さんから連絡来ていたの言うの忘れてた……マモンさんがなんとかしてくれるはずだけど、心配だなぁ」と、夏樹に言い出すタイミングがなくて悩んでいた。




