92「熱がある時の夢って怖くね?」②
――由良夏樹は真夜中の海にいた。
「――あ、これ、怖いやつだ」
すぐにわかった。
一体、自分は毎度どこにいて、どんな夢をみているのだろうかと気になる。
それ以上に、いつか海の夢のせいで漏らす日が来るのではないかと怯えている。
「……いつもより、水深深くね?」
以前は膝下くらいだったのに、今回は股下まである。
次第に深くなっていくのか、と思うと改めて怖かった。
また海の中から、髪の長い女性の腕が伸びてくるのだろうかと警戒する。
波の音だけが聞こえる真夜中の海は、ホラー要素さえなければ心地がいい。
いっそこのまま海の中に背中から倒れたいとさえ思う。そして、輝く満天の星々をあてもなく眺めるのだ。
「ま、それは今度にしよう。とりあえず今日は、向き合ってみたいと思います。スマホあれば、緊急で動画回しているんですけど、とかやりたかったのに」
今日の夏樹は一味違う。
今までは不意打ちのようなホラー展開に怯えていたが、「来る」とわかっていれば心の準備ができる。
もちろん、怖いものは怖いのはかわらない。
だが、昨日までの子うさぎのような夏樹ではない。
今の夏樹は、ちょっとだけ大人になれたのだ。
心の余裕が違う。
――ちゃぷん。
海面が揺れた。
来た、と思った。
反射的に、股の間を見る。
しかし、いない。
――ちゃぱっ。
また水音が聞こえた。
下ではない。
夏樹は弾かれるように顔を上げた。
すると、
――目と鼻の先に女がいた。
「――ひ」
喉から変な声が出た。
本当に、眼前にいた。
少しでも動けば、触れてしまうほど近い。
白いワンピースを着た、潮の匂いがする、黒髪の女だ。
顔はわからない。
濡れた前髪が、顔を覆っている。
わずかに見えるのは、切れた唇だけ。
「――な、ぜ」
女が小さく声を出した。
聞き返そうとして、夏樹は自身が急に動けなくなっていることに気づく。
「なぜ、だ?」
女の腕が夏樹の首を掴んだ。
ぎりぎり、と音を立てて殺すつもりなのか絞めてくる。
「――なぜ、私を使わない!?」
「私を使え!」
「私なら、あの程度の神など相手ではない!」
「――なのに!」
「使え、使ってくれ」
「使えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
女の髪の間から、血走った瞳が見えた。
目が合った瞬間、夏樹は気絶した。
■
「――Fyrirgefðu!《申し訳ございません!》」
アイスランド語で謝罪しながら、夏樹はベッドから飛び起きた。
「――まもん!?」
夏樹の目覚めの叫びを初めて聞いたマモンが目を白黒させて驚いている。
「――Af hverju ég? Af hverju verð ég að þjást svona……《どうして俺だけこんな目に……》」
はぁ、はぁ、と息を切らせながらアイスランド語で恐怖体験を嘆いた。
「……まもん? どうして由良夏樹はアイスランド語で叫びながら起きるのでマモンマモン!? 最近の子はこんな感じでまもんまもん!?」
「俺が知るか!」
マモンの純粋な問いに、目をこすりながらサタンも知らないと肩を竦めた。
――由良夏樹のレベルが一上がった。べ、別にあんたのためにレベル上げてあげたんじゃないんだからねっ、変な誤解しないでよねっ!
「――congratulations!」
ホラーな夢を見て、起きたらレベルアップした夏樹はとりあえず「おめでとう」と叫んでみた。
寝たはずなのに、全く疲れがとれなかった。
シリアス先輩「いや、レベルアップの概念がよくわからないけど、なんでツンデレなんだよ! もうツンデレキャラ渋滞してるじゃん! もしかしてレベルアップさんもデレるの!? 急にべ、別にあんただけ贔屓しているんじゃないんだからねっ、とかいいながらレベルを五くらい上げてくれたりするの!?」
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