88「前を向くことが大事じゃね?(きりっ)」①
とりあえず誠司に座ってもらいお割烹着を身につけたマモンが茶を出すと、改めてサタンが自己紹介をし、春子と親しいアピールをはじめた。
そんなサタンを「ええ加減にせい!」と張り倒し、小梅が遺憾ながら自分がサタンの娘であると自己紹介をする。
続けて、銀子だ。警察官である彼女は誠司とすでに会っていたので簡単に挨拶するだけだった。
リヴァ子は配信があるためすでに茶の間におらず、星子と菜々子は春子によって「ちょっと難しい話をするからお部屋にいっていてね」と子供扱いされてしまったため、誠司に挨拶をしてから部屋に戻っている。
現在進行形で、「子供扱いしないでよ!」「改善を要求する!」とガンガン念話が夏樹に飛んできている。
そして、春子、夏樹、一登と気づけば大所帯となっている。
一ヶ月前は、――夏樹の体感では数年前だが、母ひとり子ひとりで、一登が遊び来るくらいだったが、今ではすっかり賑やかだ。
現在は旅行中で不在のジャックとナンシーに、一緒に暮らしていないが、千手、祐介、ソーニャ、蓮、安倍一族、酒呑一族、神無家、水無月家と関わりが増えた。さらに魔族や神、天使もいるのだ。
振り返ろうとして一ヶ月にあまりにも色々なことがあったので、すべてを回想するのは時間がかかりそうなので夏樹は諦めた。
「――まー、では、僭越ながらこのマモンがまもんまもんとこの場を仕切らせていただきまもんまもん」
「仕切らなくていいから! 普通にお話しするのに、そういうのいいからね!?」
マモンが急に仕切り始めたので、珍しく夏樹が慌てて止めた。
いくら夏樹でも空気は読む。
あと、母を怒らせたくない。
改めて、話を始めたのは母春子だった。
「誠司さん、杏ちゃん、またこうしてお話しできることができて嬉しいわ。いろいろあったと思うけど、これからは前を向いていきましょうね」
「……春子さん。うん、ごめんなさい。そして、ありがとうございます」
「ずっと気にかけてくださり、感謝しています。杏もこうして落ち着いてホッとしています。謝罪ができたことですべてがなかったことになるとは思っていませんが――」
「いいえ、もうなかったことになりました。誰かが悪かったなんて思ったことはないの」
どうしても口を開けば謝罪してしまう誠司に、微笑みながら春子が遮る。
もう終わったことなのだ、と。
過去を掘り返しても仕方がないのだ、と。
「もう昔のことはいいんです。これからのことだけを、考えてください」
「……しかし。夏樹くんは、それでいいのかい?」
「えっと、なっちゃん昨日電信柱に頭をぶつけて記憶喪失だからなーんも覚えてないです!」
「……夏樹くん」
「それに、昔はなんかあったみたいだけど? 『今の』杏さんとはマブダチだし? なっちゃん仮に過去を覚えていたとしても引きずらないタイプだし?」
「……夏樹くん、君は」
「すべてはギャラク」
「おっと、手が滑ったんじゃ!」
「もが!?」
「……夏樹ぃ、いい感じに話が進んどるんじゃから、ギャラクシーや河童大神とか余計なことを言ったらあかんのじゃ。もし言おうもんなら、俺様も心を鬼にしておどれがパソコンの奥深くに隠しているきっとバレとらんと思っている性癖を全力で暴露してしまいそうになるんじゃが」
「――なっちゃんは過去にはとらわれない! 未来しか見ない!」
「ええ子じゃ」
小梅のファインプレーによって夏樹は余計なことを言わずに済んだ。
ただ、その心中は穏やかではない。
(……待って、やばい。やばいやばい。隠しているのって、あれ? それともあっち? いや、他のか、全部ってことはない、よね? まだ、バレてないよ、ね?)




