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246話 Sorcerer Master Online origin

-鳥取県 某所-


短い春休みが終わり、最高学年へと進学する。

商業課と言うコース制な為、クラス替え等は無い。


教室は見知った顔で溢れ、決まったグループで固まる傾向は変わっていなかった。

私にも良くつるんでいる数人の友人は居るが、特別に親友と呼べる程ではない。


休憩時間に机を合わせ、昼食をを一緒に食べたり放課後駅までの徒歩経路でファミレスやマックやモスと言った場所で寄り道をする程度で休日に一緒に遊んだりと言う事は無い。

田舎には有名店自体少なく、帰り道で立ち寄る店も限られる位だ。


私の記憶はオンラインゲームのトラブルの事件で、かなり空白の時間が存在する。

その空白の時間は恐らくゲームをしていた時間なんじゃないかと医者が仮説を立てていた。


何となく記憶を無くす前日までの事を書き出してグラフ化して見ると、当日は水曜日で朝起きて朝食のパンを食べてから学校へ行った事は覚えている。


その後真直ぐ帰宅しSMOを起動したまでは覚えている。

その後自室の机で起きるまでの記憶が無い。


最初は学校の友人の名前も思い出すのに苦労したが、友人の話を聞いたりお互いの携帯に残っていた写真等を見ている内に思い出す事が出来た。


しかし、不思議な事にゲームでの出来事は一切覚えていない。


掛かり付けの医者が「ゲームを再度プレイしたら思い出すかも知れないですね。」と言っていたが、制作会社の方の話ではトラブルが起きた際にゲームデータの大半がウィルス的な物で壊れてしまい現在修復中らしい。


その修復作業も通常業務外に少数の友人と協力して行っているので、再現が出来るまではかなりの時間が掛かると話していた。


ある時、制作会社の人が私のパソコンに残っている「会話ログ」や「行動ログ」を見る為に内部フォルダを開いて見た事が有った。

しかしログ全般とソースコード自体が文字化けしておりデータ自体が壊れていると話していた。

会社も同様なので結局記憶の手掛かりとなる情報を得る事は出来なかった。


私生活に支障が殆ど無い為、度々遠方から訪ねて来てくれている制作会社の方に「もう大丈夫ですよ。」と言うと、凄く悲しそうな表情で「分かりました、お大事にして下さい。」と言って再度訪れる事は無かった。


――やがて夏になり、高校最後の夏休みが始まる。

進学予定の為、図書館に赴き慎ましやかに勉強をする。


私は自室で勉強するのが苦手なのだ。

パソコンで「作業用●●」とか「●っくり解説」等の動画を見てしまい集中出来ない。


興味の有る事に対しては集中出来るのに、興味が薄い教科はどうも効率が悪い。

SMOの様に楽しみながら勉強出来たら良いのに・・・と脳裏に言葉が浮かぶ。


しかし記憶に無いと言う、意味が分からない状況になる事が有る。

私は余程SMOと言うゲームが好きだったんだろう。


しかし何ヶ月過ぎようと、その記憶を思い出す事は無かった。


――季節は移ろい実りの秋が訪れる。


つい先日まで気温が40度近くまで上がる日が多かったのに、山に紅葉が見られる時期になると衣服を一枚増やさないと肌寒いと感じる日が増えて行った。


・・・何気無い日常。

青春と言うには余りにもイベントが少ない簡素な時間。


クラスの数人は公認カップルとしてお付き合いしている人がいる。

私も数人の男子から付き合って欲しいと言う告白イベントなる物を経験した。


しかし特に意識した事も無い人間に好意を告げられてもピンと来なかった為、丁重にお断りをした。


友人には勿体無いと言われ、嫉妬に似た感情をぶつけられるが友人に対して友人が毛嫌いしている男子に同じ事を言われたら付き合うのかと聞いたら絶対に付き合わないと言う。

それに対して勿体無いじゃんと言うと、男子のスペックが違うと熱弁される。


私にとって特別視している男子が居ないので、違いが分からない。

まぁ多分恋愛に興味が無いって事なんだろう。


この感情は記憶の欠落に起因しているかも知れない。

確信が有る訳じゃ無いけど、漠然とそう感じる。


記憶の一部を無くしてから約1年、高校最後の冬休みが来る。


クリスマス?

日本では無神論者達が宗教色皆無な状態で娯楽イベントとして過ごす。

俗に言う精夜・・・もとい聖夜。


テレビではニュースやバラエティ番組でもこのイベントの事を取り上げ、社会経済を回す為にクリスマス特集と銘打った番組を垂れ流す。


小学生の時にサンタクロースの話をしていた時に、頭の良いクラスメイトの男子が話していた内容がきっかけでクリスマスに対して冷めた見方しか出来なくなってしまった。


男子の話ではサンタクロースがしている事は不法侵入と不法投棄であって只の犯罪者だと熱弁していた。

今思うと小学生が覚えたての単語を使いたくて話していたに過ぎない他愛も無い内容だが、多分それが原因なんだと思う。


もしかしたら私はその名前も覚えていない上級生の男子の事が好きだったのかも知れない。

それは、ある意味洗脳の様な感じ。


特にクラスメイトとパーティーをする訳でも無く。

当然彼氏も居ないので実家でクリスマスを過ごす。

ケーキとチキンを食べ、毎年定番のテレビ番組を眺める。


あっと言う間に年が明け、大学入試試験が滞り無く終わる。

自己採点でも比較的点数が取れた方だと思う。

余りランクの高い大学を選んだ訳じゃない為心配はしてない。


2月はバレンタインと言うこれまた資本主義に生み出された恋愛的イベントがやって来る。

本命ばりの友チョコを数人に配り、このイベントは終了。

私は手造りチョコに抵抗が有るので毎年購入品だ。


大学合格通知が届き、安堵の息を漏らす。

入学手続きを済ませ、両親と県外で住む為の家を探す。


春から一人暮らしをするに当たって不安よりも期待や好奇心の方が勝っている。

少し早めに入居出来る様に契約して貰い、両親に手伝って貰い引っ越しを行う。


慌ただしい日々が過ぎ、やがて卒業式が終わる。

何故か涙は出なかった、理由は何となく分かっている。


高校生活の約半分以上の記憶が無い。

それはSMOに費やした時間が空白だからだ。


私の高校生活って・・・と少しだけ後悔する。


卒業式の翌日、実家に私宛の小包が届く。

SMO制作会社の鶴ケ谷稔(つるがやみのる)と言う人からだった。


小包の中には一枚のディスクと手紙が二枚入っていた。

その手紙には迷惑を掛けた事の謝罪と無くした記憶を取り戻せるかも知れないと書かれていた。


もう一枚の手紙はディスクのインストール方法とユーザーID、パスワード等が書かれていた。

DVDディスクには〖Sorcerer Master Online origin ~深紅の薔薇~〗と書かれていた。


これはSMOのゲームディスクなんだろうか?

手紙の内容は、これを起動すれば記憶が戻るかも知れないと書いて有った。


「深紅の薔薇」、頭の中にこの単語が深く響く。

その単語が何を意味するか分からないが、何かとても懐かしい感じがする。


その日の内にインストールしたかったが、パソコンは既に引っ越し先に移動済だ。

残念だけど暫くはインストールする事が出来ない。


私は自室の押し入れの奥から一つのヘルメットを取り出す。

SMOをプレイする為に買って貰ったフルフェイス型のヘッドマウントディスプレイだ。


・・・これも一応、引っ越し先に持って行こう。


数日後、親の車で引っ越し先に向かう。

私がヘルメットを抱えているのを見かけた母親は余り良い顔をしなかった。


記憶を無くした事故の原因になった物だからだろう。

向こうのリサイクルショップで売ろうと思ってと話すと簡単に納得してくれた。


隣県のマンションに着き両親と別れる。

オートロックを解除して5階の自分の部屋へとエレベーターで上がる。


両サイドの部屋への挨拶は事前に済ませて有る。

両隣は社会人の女性だった。


元々アパートでも良かったんだけど、父親が隣人を吟味した結果少し家賃が高めのマンションになってしまったのだ。

家賃は親持ちなので、特に文句は無い。


カードキーを翳し部屋へと入る。

幾つか段ボールから出していない私物を漁り、パソコンを取り出す。


インターネットはWi-Fiで使い放題の部屋なので、簡単に設定を終わらせる。

以前届いたSMO起動ディスクをインストールして、久しぶりにヘルメットを被る。


懐かしい閉塞感を頭部に感じる。

アプリを起動すると記憶を無くし気が付いた時に見たゲーム画面が映し出される。


〖Sorcerer Master Online origin〗と表示され、画面中央下に〖press the enter key〗と表示されている。


私はエンターキーを押しログイン画面へと移動した。


キャラクターは既に作成されており、全ての設定が変更出来無い様になっていた。

どことなく自分に似ている、職業は忍者でレベルは100。


名前は私と同じ「シノブ」となっていた。

私はそのまま決定を押してゲーム世界へとダイブしていった。

お読みいただきありがとうございます。

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