245話 侍の決意
-北海道 某所-
俺は仕事に追われていた。
諸事情により無断欠勤、そして午後から会社に警察に連絡が行き翌日も有給と言う形で休みを取る。
異世界の冒険を終えた俺は欠勤2日分の仕事の「ツケ」を半強制的に取る羽目となっていた。
あの異世界での冒険の日々が余りにも眩しくて、この糞みたいな現実世界に若干の嫌気を感じつつ貯まった仕事を捌いて行った。
「この書類もヨロシクな。」
散らかったデスクの上に課長が追加の書類を無造作に置いて行く。
思いっきり睨み付けようと思い振り向くと、上司は顔を合わせない様に足早に去って行った。
今日も残業確定だ。
会社からは残業をするなと言う指令が降りてきている為、残業時間が増える毎に人事査定がマイナスになる。
現代は少ない人数の中、短時間で多くの仕事を終わらせて結果を出す事を求められる時代だ。
しかしどんなに効率良く計画的に仕事を終わらせても、今の様にイレギュラーな追加業務が増える事が有る。
それでいて「お前に計画性が無いからだ」と部長から言われたりする。
仕事が出来なくても露骨な媚を売る同僚は気に入られ、その同僚以上に仕事をして結果を出したとしても給料が上がる事は無い。
むしろ媚を売っているヤツの方がボーナス査定が高かったりする。
チームワークは確かに大事だが結果主義を疎かにしがちな会社は将来性を考えるとモチベーションが下がってしまうのは事実だ。
激務をこなしている中でふとシノブの事を考えてしまう。
彼女は元気にしているだろうか?
・・・俺は彼女の電話番号を知っている。
最終決戦前に聞いた「復活の呪文」だ。
何度も魔法の様に詠唱し暗記した。
しかし俺と同じ様に検査入院やら警察の事情徴収やらで忙しいのではないかと考えると電話を掛け辛い。
俺も忙しいし・・・焦る事は無い。
高校が冬休みに入る頃に彼女に電話すれば良いかと後回しにしたまま時間だけが過ぎて行った。
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事件から一週間が過ぎた頃、SMOを制作した会社の社長を名乗る相手と会う事となった。
アポイントの連絡が有ったのが4日前、会社に連絡が有り謝罪を申し出ると言い出したので断ったのだが向こうの押しに負け久々の休みを潰して会う事になった。
わざわざ東京から2名の社員を連れて北海道まで謝罪をしに来た。
菓子折りと謝罪の気持ちと言う事で幾分かの金銭が入った封筒を渡され、頭を下がられる。
多分口止め料的な感じなのかなと・・・邪推する。
俺はあっさり謝罪を受け入れて話は終わり、制作会社の人々は帰って行った。
その時は気付かなかったが、昼に受け取った名刺を見て改めて気が付く。
鶴ケ谷稔と書かれた名刺の裏に手書きの文字で「暗黒神ハーデスだ、連絡しろ」と小さな文字で電話番号も添えられていた。
脳内でゲームの中のハーデスの顔が浮かぶ、同時に名刺を渡して来たガリメガネの顔が重なる。
全然違うじゃん・・・
まぁ、俺も人の事は言えないか。
俺の中で暗黒神ハーデスはキャラ通りに浅黒い健康美女を想像していた。
ネカマだと分かった後も同じ様にわざわざ日焼けサロンに通う様な陽キャの男を勝手に想像していたからだ。
「・・・そうだな、俺も人の事は言えない。」
誰にも聞こえない位小さな声で呟く。
ゲーム内では名前の通りに純和風の女性で桜模様の和装を纏い、華麗に戦う女侍。
しかし実際は激務に疲れ果てた何処にでも居るサラリーマンだ。
面倒臭いと言う表情を全面に出して、適当な返事で愛想笑いすら少ない態度を取っていたからハーデスが感じた印象はかなり悪かっただろう。
名刺を受け取ってから3日後の夜にハーデスに連絡を入れる。
お互いにタドタドしい挨拶を交わし手探りで話題を探しながら話をする。
通話相手が男だと言うにも関わらず会話の糸口が少ない自分が情けなくなってくる。
今の状態でシノブに連絡したら、間違いなく恥をかくだろう。
シノブの事を考えながら、ぎこちなく話しているとハーデスがシノブの話題を出した。
「シノブ・・・相葉忍。彼女の記憶が欠落しているらしいんだ。」
「どういう事だ!?詳しく聞かせてくれないか!?」
記憶の欠落?
どういう事だ?
まさか廃人の様な状態になってしまったのか!?
・・・思わず最悪の事態を想像する。
破壊神ヨグトスはSMOのゲームサービスが始まった時に主要NPCの人格をプレイヤーの中から選んだと話していた。
確かに、このゲームが始まったサービス初日にゲーム中に倒れて搬送された人間が数人居た。
少人数だった事と2日目以降そう言った事例が出なかった為、因果関係が見つからずゲーム自体に問題が無かったと言う話になっていた。
まさか同じ様な状態になってしまったんじゃ無いだろうか。
ハーデスの話はシノブの家にも謝罪に行ったらしい。
そこで彼女と再会した様だ。
アビスダンジョン最下層で破壊神ヨグトスが見せたリアル姿のシノブと全く同じだったと話す。
御両親の話では「ゲームをしていた」という事柄だけが頭の中に有り、その記憶自体が完全に欠落していると言う話だ。
「じゃ、俺達の事も全部覚えて無いって事なのか?」
「ああ、完全に抜け落ちているらしい。現在も高校に通いながら通院している様だ。」
衝撃だった。
俺自身無事だった事で、彼女も同じだと思い込んでいた。
ハーデスは自身の仮説を話す。
あの世界のシノブの実態は破壊神ヨグトスに80パーセント近く浸食された所で、浸食された本体はシノブとサクラが倒す事で消滅させた。
分離に成功して残った部分がリアルのシノブが今覚えている部分なんじゃないかと話していた。
あの時、俺とシノブが破壊神ヨグトスに止めを刺して倒した。
俺達が倒したのは・・・いや、消滅させたのは彼女の精神の一部だったんじゃないか?
俺が・・・原因なのか!?
最後の一撃は彼女の記憶に大きな影響を与える結果となってしまった訳だ。
・・・その事実を聞かされて絶望に似た感情で目の前が暗くなる。
「記憶は戻るかも知れないし、戻らないかも知れない。しかし僕は戻る方法を考えている。」
「どうやるんだ!?教えてくれ!!!」
「少し時間が掛かるがな・・・君にも協力して欲しい。」
「何でもする!・・・膨大な時間が必要なら仕事も辞めても構わない!!」
俺はシノブの記憶が戻るなら、本気で仕事を辞めても良いと思った。
それ位、俺の中で大切な女性だ。
それにその記憶失った原因は多分俺だ。
破壊神を倒して世界を救う・・・
そんな栄誉や大義名分なんて要らない。
俺はただ皆で現実世界に戻りたかっただけだ。
いや、違う。
シノブを救いたかっただけかも知れない。
俺は硬く決意する。
必ずシノブの記憶を取り戻して見せる!
「拙者は絶対にシノブ殿の記憶を取り戻す!」
「・・・・ふん、そう来なくてはな!」
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