247話 再会
-アルテナの草原-
だだっ広い草原が周囲に広がる。
美しい緑色の植物が風の音に合わせて揺れる。
風と草の揺れる音が耳元に響き視覚と聴覚を刺激する事で、匂う事の無い草花の香りや風が自身の頬を触れる様なリアルな錯覚を覚える。
この光景に何故か懐かしさを感じる。
記憶の深層に触れる様な擽ったさがあった。
「シノブ!」
どこかで聞いた事の有る声で名前を呼ばれて振り向くと、赤い髪に黒い服とマントを羽織った機械種のプレイヤーが立っていた。
頭上には【スナイパーLV100】と表示されており、その下には【DOS】と表示されていた。
「・・・・えっと。はじめまして。DOSさん?」
私はそのキャラクターに無難な挨拶で返事をする。
・・・もしかして知り合いなのだろうか?
DOSさんの周囲には5人のキャラクターが立ち尽くしている。
DOSさんも一言喋って停止してしまった。
どうしたモノかと考えていると、周囲をモンスターに囲まれる。
猪に似た様な二足歩行のモンスターが9体。
私達を囲む様に出現する。
自分のキャラクターがオートモーションで武器を構える。
右サイドに表示されているウィンドウログに「【五月雨】を装備した」、「【村雨】を装備した」と表示される。
何となく操作方法を覚えている様な気がする。
幾つかのボタンを押してキャラクターモーションを確認をする。
何故か不思議な感覚を覚える。
体が、指が覚えている。
「行ける!」
コントローラーのアナログスティックを動かし、軽いステップでモンスターに近付き刀で斬りつける。
ザシュ!ズバッ!
モンスターは一撃であっさりと絶命する。
自身のキャラクターが100レベルと表示されていた事を思い出す。
レベル差の関係か9体のモンスターはあっさりと倒してしまう。
どうやら私は、この場所には不釣り合いに高いレベルらしい。
ログを確認すると「EXP MAX」と表示されており、最大レベルだと言う事に気付く。
「シノブ殿!?」
「シノブ!」
「シノブ!!」
「シノブ!」
次々とアニメ等で聞いた事の有る有名声優の声がスピーカーに響く。
先程まで草原に立ち尽くしていたキャラクターが動き出し、私の名前を叫んで近付いて来た。
「え!?え?」
私は状況が飲み込めず戸惑う。
彼女達は私の事を知っている様な親しさを感じる。
しかし、私は全く持って覚えが無い。
「ふむ、思い出せない様だな。」
【ソーサラー LV100 暗黒神ハーデス】と言う魔王の様な恰好をした闇妖精種の女性キャラクターが喋る。
暗黒オーラの様なエフェクトを纏い、どこか魔王の様な支配者の風格を漂わせている。
「ああ・・・、シノブ!シノブ!!」
OLが着る様なパンツスーツを着用した緑色の髪をした妖精種が私のキャラクターに抱き着いてくる。
タイトなスーツ越しにでも分かる超絶スタイルの良いキャラクターだ。
名前は【アークビショップ LV100 伊集院咲耶】と表示されている。
頭上には嬉しさを表現する顔文字の様な吹き出しが連続で表示される。
画面横のログウィンドウを「笑顔モーション」が埋め尽くす。
「おい!離れるでござる!シノブ殿が困っているでござろう!」
その横でポニーテールの女侍が頭上に怒りの顔文字の吹き出しを出しながら、伊集院咲耶を装備している刀で斬りつけるモーションで攻撃している。
パーティー設定の関係か、刀での攻撃は伊集院咲耶の体をすり抜けていた。
このゲームは仲間に攻撃判定が無いと言う事をなんとなく思い出す。
そう、ゲームのシステムを何となく思い出したのだ。
女侍の名前は【侍LV100 SAKURA】と表示されていた。
薄いピンクに桜の刺繍が付いている着物に黒い袴の様な恰好をしている。
そして周囲には桜の花弁が絶える事無く舞っている。
「久しぶりですねシノブ。やはり、まだ思い出しませんか?」
黄金色の髪をして後光と輝きを纏った美しい女性が、落ち着いた口調で話しかけて来た。
その背中には天使の翼を携え、金色に輝く鎧を纏っていた。
頭上には【ロードLV100 ミカエル=アルファ】と表示。
その姿は名前の如く大天使と呼ぶに相応しい容姿をしていた。
「皆さんは私を知っている方々でしょうか?ごめんなさい、私は記憶が少し欠落してて・・・皆さんの事を覚えて無いんです。」
皆は頻りに「思い出す」と言う台詞を言っているって事は、私が記憶を欠落している事を初めから知っている人達だ。
やはり私達は知り合いなんだと気付くと同時に、申し訳ないと思う罪悪感に似た感情が湧いてくる。
しかし、皆はそんな私を気にする事無く「問題無いです」と口々に答える。
私の画面に『ミカエル=アルファがパーティーに招待しています。YES or NO』とウィンドウが表示される。
私は戸惑いながら「YES」を選択する。
画面の左端に全員の名前とHPとSPが棒グラフで表示される。
HP・SP・・・。
体力を表すヒットポイントと特技を使う時に消費するスキルポイントだ。
・・・良く見た光景だ。
確かにこのウィンドウ配置には見覚えが有る。
「時間は大丈夫ですか?」
伊集院咲耶が優しく問い掛けて来る。
大学の入学式までは暫く日数が有る。
明日も特に予定が有る訳でも無い。
生活用品の買出しと周辺地理の確認位だ。
「だ、大丈夫ですよ。」
「じゃ、行きましょう。私が案内しますよ。」
「おい!だから何でお主が主導しているでござるか!」
私の手を引こうとする伊集院咲耶にSAKURAが喧嘩腰で突っかかる。
・・・・何だろう。
この2人のじゃれ合う様なやり取りはとても懐かしい感じがする。
2人のやり取りを見て、思わずクスリと笑いが零れる。
「ごめんなさい、2人って仲良いんですね。」
「良く無いです!」
「良くないでござる!」
息ぴったり!
表層的にどうか知らないけど、やっぱり仲が良いんだなと感じる。
「忘れていると思いますが、私達は貴女と同じギルドに所属して一緒に冒険していた仲間です。貴女が記憶を無くした原因も知っています。」
記憶を無くした原因はコンピューターウィルスで暴走したプログラムの電気信号を受けて、ディスプレイから発した点滅信号を視界を通して脳に影響を与えた・・・とかなんとか医者が言っていたのを思い出す。
あれ?
でも確かゲームプログラムは壊れたとか何とか言っていた様な気がする。
「・・・我が妻として契りを立てた事も忘れてしまった様だな。」
「え!?」
魔王の言葉に驚いて思わず上ずった声を上げてしまう。
契り・・・?
婚約って事!?
この人って私の彼氏か何かなのか?
それとも、もっとディープな事?
私が焦っていると魔王以外の全員が「嘘を付くな!」と総ツッコミを受けていた。
嘘か。
ああ~ビックリした。
皆仲良さそうにガヤガヤと騒いでいる。
覚えてないけど、やっぱりどこか懐かしさを感じる。
凄く不思議な安心感?
心が温かい・・・
「これから記憶を取り戻す旅に出ます。と言っても、そこまで時間は掛りませんから。」
「はい、分かりました。よ、よろしくお願いします!」
私は皆に連れられて自分の記憶を取り戻す旅へと出る事になった。
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