告白:「だってあたしが惚れた女だもん」
(ああ……だからあのとき、あんなことを……)
急に理解してしまった。
最初の日、車の中で玲蘭は確かに言った。『マサキが女の人でよかった』と。確かあれは、男との旅行なんてパパに許してもらえるわけがない、みたいな話だったはず。
あの言い方がなんとなく引っかかっていた。ずっと気になっていた。……だってあれはどう考えても、『男性とは旅行できないからマサキを連れて行くことにした』というニュアンスじゃなかったから。
そうか。あれは、『自分が好きになったマサキが女性でよかった』という意味だったのか。
だって女同士なら、社長に咎められることもなく大手を振って旅行に出られるから。玲蘭はそれを喜んでいたのか。
「こんなに素敵な人がこの世にいたのかってあたし、感動した。だからあの秘書さんがあたしのこと好きになるにはどうしたらいいかって、あたし、考えて」
「……待って、待って」
それにしても、メチャクチャ重い愛をまっすぐに向けられている。脳が完全に置いてけぼりを食らっている。
「待たない。いいから聞きなさい。だってね、あたしはその秘書さんにとって、たった1回ちょっと話しただけの女子高生でしかない。17歳の小娘に突然『好き』って言われたとして、パパの秘書さんなんて立場の人がまともに相手してくれるわけがないんだよね」
なるほど。玲蘭の側から見ると、そういうことになるのかもしれない。
「社長の娘さんだから失礼があってはいけないなぁって、お気持ちは嬉しいけれどって曖昧に濁して終わり。普通にコクったとしたら、マサキはきっとそうしたでしょ?」
「ええと……」
そのシチュエーションをじっくり想像してみた。……確かに自分はそうしただろう。
「あたしの『好き』はそんな方法じゃ叶わない。だからあたしは別の手段に出た。どうにかマサキの弱みを握って言うこと全部聞いてもらおうと思ってマサキのこと調べて、頑張って調べたら最高の情報が手に入ったからパパに根回しして、18歳になるのを焦がれるほどに待って。それで、夏休みに入って18歳になったと同時に、作戦を決行した」
なんたる執念。……だから出発日は誕生日の翌日だったのか。
︎︎知らないうちにそんなとんでもないことに巻き込まれていたのだと理解したら、めまいがしてきた。
「どうしてもこの人がいいって思ったから、こういう方法しかなかった」
玲蘭はジンジャーエールを一口飲む。そこで喉が乾いていることに気がついたのかもしれない。一口では飽き足らず、がぶがぶとかなりの量を飲む。
それから続けた。
「マサキの質問は、なんで手の内を明かしたのか、でしょ? だってあたし別に、ずっと秘密にしたまま旅を続けるつもりなんてなかった。そういうの性に合わないし、黙っとくのもダルいし」
目が据わっている。……昨日も思ったけれど、やっぱりこのお嬢様はジンジャーエールで酔うのではないか。そんなことを考えてしまうほどに玲蘭は饒舌だ。
「今日のお昼、崖の上で確信した。あたしが全部明かせばマサキは話を聞いてくれる。マサキはたとえ動揺しようが困り果てようが、全力のケンカになろうが、そこで折れて腐っちゃうことはない。最後にはちゃんと把握して理解してくれる。マサキはそういう人だって信じたからさっさと言っただけ」
「何をもってそんなに私を信じられるわけ……?」
正直、玲蘭の告白を受け止められないというわけではないけれど、玲蘭が言う通り動揺は激しいし、もちろん困り果ててもいる。
だけど玲蘭はいつだって揺るがない。
「だってあたしが惚れた女だもん」
「わぁ……」
わぁとしか言えなかった。もう、本当にどうしよう。
混乱状態は続いている。
それでも、自分はこのとんでもなく大きく重い感情をぶつけられて、そのままにするというわけにはいかないはずだ。
「……あのっ、あのさ、レーラ」
玲蘭は自身の恋心を全てさらけ出した上で、凛としてそこにいる。この状況で、曖昧に濁すなんて不誠実なことをしてはいけない。
だから言った。
「私、も、レーラのこと、好き」
「知ってるけど?」
とんでもない返事が来たものだから、たじろいでしまった。なんて自信過剰なんだろう。
自分は玲蘭ほど、想いをまっすぐに言葉にはできない。なにしろ、現在進行形で盛大に迷子になっているのだ。
「あの、ね。最初のうちは、恋人同士になるんだって言われて、言われた通りに恋人同士やってて、でも、昨日今日出逢った8歳も年下の子と恋人同士ってどうなのって、思ったりしたけど」
玲蘭が気を悪くしないよう、言葉を選びながら話す。
本音を言えば、最初はそういうつもりは全くなかった。お嬢様のごっこ遊びに付き合うのが自身に課せられた仕事の1つなのだと思い込んでいた。
「それで、旅に出て3日経って、もちろんまだ自分の気持ちがわけ分かんないというのも事実なんだけど、だけどそれでも、それでもね」
話し始めてしまったから途中で飲み込むことはできない。ドキドキして、口から心臓が飛び出しそうだったけど、とにかく言いたいことを伝え切るしかない。
「今は私、レーラのこと、好きだなって思ってる」
愛の告白は、やりなれていない。うまく伝えられている自信がまったくない。
「ホントはさ、まだ分かんないって思ってるでしょ」
玲蘭はさすがに鋭い。
「思ってる、けど」
嘘はつかないと宣言した以上、とにかく真意だけを話すしかないのだろう。だから、思っていることをそのまま言葉にした。
「でも好きなのも本当。私、もうレーラに嘘つかないから。まだ分かんないけど、だけど、好き。それが本当の気持ち」
「ん。そっか。……嬉しいな」
玲蘭がふわりと笑う。
天使みたいに可愛らしい笑顔だった。
***
「結局さぁ、パパがああやってパーティーにあたしを引っ張り出すのは、お披露目みたいなものじゃん?」
感情がジェットコースターみたいに振り回され続けた大変な長話を終え、とにかく寝支度をすることにした。
歯を磨いたあと、玲蘭はふとそんなことを言った。
「お披露目、ね」
要するに社長は、自分の娘をよその企業やお偉方に披露するために、パーティーに出席させているということか。
︎︎そして、それをする理由といったらやはり……。
「ああ、そう、ね」
急に思い出した。玲蘭がそれを言っていたんだ。
「パーティーのときにレーラ、言ってたもんね。パパはこうやってあたしをパーティーに出して、どっかの御曹司とかその身内とかに見せて、婚約者探そうとしてんのよって」
「覚えてたのね、眉間にシワ寄せてコーヒー飲んでた社長秘書さんは」
感心したといった表情で玲蘭がこっちを見てくる。……いや、今思い出しただけなんだけど。
「まだ17なのに婚約なんてありえないとか言ってさ、レーラはむくれてた」
どんどん記憶が蘇ってくる。
「うん。だからあのときあたしは、くだらない男あてがわれたらどうしようってマサキに相談した。かっこいい秘書さんなら悩みを聞いてくれるんじゃないかって思ったんだもん」
ベッドに腰掛けた玲蘭は、夢を見るみたいにうっとりした瞳を真咲に向けてくる。
「そうしたらさ、こんなにお綺麗で素敵なお嬢様がとんでもない男と結婚する羽目になるくらいなら、いっそ私がお嬢様の婚約者に立候補いたしましょうかって言って、マサキはかっこよく笑った」
「……」
我ながら、ドン引きした。
「……覚えてないの?」
完全に覚えていない。
「……いいえ、覚えてないわけじゃない、と思う、ええと」
本当に覚えていない。
そう言われてみれば言ったかもしれない。
いや、言っただろうか。
でも言ったんだろうな。
なんとなく、自分はそういうシチュエーションで妙に軽いことを言いそうだ。
彼氏がいたことすらないのに、どえらい発言をしたことだなぁ……。
「それであたし、この人があたしの王子様なんだって思った」
遠い目をしている真咲になんてお構いなしに、玲蘭がかつてないほどキラキラした瞳でそう語る。
完全に理解した。
自分の人生がグラリと傾いてしまったのはひとえに、自分の不用意な発言のせいだった。
要するに、完全にやらかしている。どうにも、自分は底なしのバカなのかもしれない。




