第99話:模倣の嵐と、一滴の聖域(ブランドの盾と、コストナーの執念)
予感は的中した。
帝国、そして王国内の有力貴族たちが、国家予算を投じて「魔法の器」のコピー品を大量生産し始めたのだ。
1. 泥沼の価格競争
「オーナー、市場が帝国製の安価な『模倣麺』で溢れかえっていますわ。あちらは品質を度外視し、兵士たちに配るための『数』だけで勝負してきています。我が社の売上は一気に急落……このままでは価格競争に飲み込まれます!」
ソラリスが悲鳴に近い報告を上げる。
相手は国家だ。人件費も材料費も無視して「安さ」で殴りつけてくる。前世のデフレ時代でも経験したことのない、理不尽なまでのダンピング。
2. コストナーの怒りと「本物」
開発室でコピー品を試食したコストナーは、その容器を叩きつけた。
「……こんなものは、ただの『戻る小麦粉』だ! スープに深みがなく、麺のコシも死んでいる。オーナー、私は許せません。私の作った『魔法の器』が、こんな粗悪品と一緒にされるなんて!」
ケニーは、コストナーの燃えるような目を見て頷いた。
「分かっている。コストナー、価格で対抗しようとするな。……相手が国家なら、俺たちは『文化』と『技術』で勝負する」
3. 起死回生:名店コラボの衝撃
ケニーが打ち出した一手。それは、王都で最も予約が取れないと言われる超一流レストラン『黄金の獅子亭』との公式コラボレーションだった。
「コストナー。あの店の門外不出のスープを、お前の技術で完全に再現しろ。……名店のシェフと共同開発した『至高の一杯』を作るんだ」
「名店の味を……カップ麺に?」
「そうだ。これは単なる食料じゃない。あこがれの名店の味を、三分で、自分の家で楽しめるという『体験』を売るんだ。……お前が磨き上げた『一滴の抽出技術』と、あの複雑な出汁の配合は、国家レベルの突貫工事では絶対に真似できない」
4. 49歳の「誇り」とコストナーの技術
コストナーは、不眠不休で名店の味を解析し、粉末と液体スープの極限のバランスを叩き出した。
発売されたコラボ商品は、瞬く間に話題となった。
「帝国のは安かろう悪かろうだ。だが、ケニーの店のこれは……あの『黄金の獅子亭』の味がするぞ!」
単なる兵糧から、手軽に贅沢を味わえる「嗜好品」へのパッカーンとした進化。
安いコピー品に愛想を尽かしていた客たちが、今度はコストナーが作り上げた「本物」を求めてケニーの店へ殺到した。
ケニーは深夜、店内の棚に並んだ美しいパッケージのコラボ商品を愛おしそうに眺めた。
(……価格で負けても、価値で負けなきゃ商売は続く。コストナー、お前の技術がこの店を救ったんだ)
49歳。彼は知っている。最後に残るのは、安さという数字ではなく、心に刻まれる「本物の味」であることを。




