第96話:不夜城の要塞(過剰な防犯と、運命の呼び出し)
女性を救ったあの一夜以来、ケニーの胸にはある種の「使命感」がパッカーンと弾けていた。
「ソラリス。一店舗だけでいい、試験的に『絶対安全店舗』を構築する。コストは度外視だ」
1. やりすぎた「聖域」
数週間後、王都の北西区に、前代未聞の店舗が出現した。
「……オーナー、これは流石に、その、派手すぎませんか?」
ソラリスが呆れたように見上げる先には、通常の三倍の出力を持つ魔導灯がこれでもかと設置され、昼間よりも明るい「光の柱」が立ち上っていた。
店外には、不審者を自動で追尾する赤色の魔導センサーが巡らされ、壁面には「防犯記録中」という文字が、目が痛くなるような極彩色で点滅している。
2. 異世界の「不夜城」
街の住人たちは、遠巻きにその店を眺めていた。
「なんだあの派手な建物は?」「魔術師の塔か?」「いや、コンビニだろ。中に入ると、警備用の魔導ゴーレムが笑顔で挨拶してくるぞ」
やりすぎた。ケニー自身も、自分の趣味と「前世の新宿の夜」を混ぜ合わせたような外観に、少しだけ後悔の念がよぎった。
だが、その明るさのおかげで、周辺の路地裏からはピタリと影が消えた。不良たちは「あそこはヤバい」と近寄らなくなり、代わりに夜勤明けの女性や、怖がりの子供たちが、磁石に吸い寄せられるように集まってきた。
3. 一店舗だけの「正解」
「……まあ、一店舗くらい、こんな『やりすぎな安全』があってもいいだろう。二店舗目はいらないがな」
ケニーは苦笑しながら、店内の防犯モニターを確認した。
経営的には効率が悪い。だが、この派手な光に救われている人間が確かにいる。その事実が、49歳の経営者の心を少しだけ軽くした。
4. コストナーからの福音
そんな「防犯の城」の司令室に、一台の魔導通信機が激しく鳴り響いた。
相手は、開発室に籠もりきりだったコストナーだ。
『オーナー! 出来ました……! 今度こそ、あなたの言った「中毒性」と「安さ」の限界をパッカーンと超えた、真の試作品です!』
通信越しでも伝わってくる、彼の興奮と、油にまみれた達成感。
「……分かった。今すぐ行く」
ケニーは派手な防犯カメラに背を向け、自社工場へと急いだ。
ついに、世界を平和にする「あの一杯」が、完成の時を迎えようとしていた。




