表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

86/157

第86話:プロフェッショナルの証明(引き抜きの罠と、現場の格)

ケニーの店で働くスタッフたちの「多能工マルチタスク」ぶりは、皮肉にも、彼らを見下していたはずの外部勢力の目に留まることとなった。

1. 傲慢なヘッドハンティング

「ケニー殿。貴殿の店の店員を、我が王立魔導ギルドの事務員として数名譲っていただきたい。……あんな薄汚れたレジに立たせておくには、惜しい手際の良さだ。もっと『格上の仕事』を与えてやるのが温情というものだろう」

ギルドの幹部が、まるで「救い出してやる」と言わんばかりの態度で交渉に来た。彼らは、コンビニの店員を「単純作業の繰り返しで疲弊している哀れな労働者」だと決めつけていた。

2. 現場を去った三名

ケニーは止めることをしなかった。「自分の価値を確かめてこい」と、希望した三名を送り出した。

彼らが配属されたのは、ギルドの受付や書庫管理だ。誰もが「あんなレジ打ちに比べれば、天国のような仕事だ」と笑った。

だが、事態は一週間で一変する。

3. 圧倒的な「処理能力」

ギルドの事務は、コンビニのレジに比べれば驚くほど「単調」だった。

一時間に数人の来客、決まった書類の整理。コンビニ店員として、一分間に数十のタスクを同時にこなし、不測の事態に即座に対応する訓練を受けてきた彼らにとって、それは止まっているのも同然の仕事だった。

「……終わりました。次は?」

「な、何だと? この量の魔石の検品を、もう終わらせたのか!?」

彼らは、コンビニで培った「効率的な動線」「在庫の先入れ先出し」「客の機微を読む洞察力」を無意識に発揮していた。ギルドのエリートたちが丸一日かけてやる仕事を、彼らは午前中で終わらせてしまったのだ。

4. 49歳の「確信」

「オーナー……彼らが戻ってきたいと言っています」

ソラリスが苦笑いしながら報告する。ギルド側は彼らを手放したくないと泣きついたが、当の店員たちは「暇すぎて耐えられない。現場の、あのヒリつくようなスピード感が恋しい」と言っているという。

ケニーは、戻ってきた三人をいつものようにレジへと迎えた。

「……分かったか。お前たちがやっているのは、世間が思うような『低俗な労働』じゃない。最高密度の判断力を求められる、選ばれた人間にしか務まらない仕事だ」

ケニーは、彼らが再び流れるような手つきでレジを捌き、品出しを行い、清掃をこなす姿を、深い満足とともに見つめた。

49歳。彼は知っていた。世間の「格」という物差しがいかに滑稽であるか。そして、この24時間の灯火を守る者たちが、この国で最も優れた「実務家」であることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ