第85話:万能の従事者(見下す者と、選ばれし者)
王都の貴族や、エリートを自称する文官たちの間には、ある共通の偏見があった。それは「コンビニの店員は、位の低い者が就く仕事だ」という蔑みだ。
1. 傲慢な「視線」
「ただレジに立って、物を渡すだけではないか。学も武勇もない連中が、食い繋ぐためにやる底辺の仕事だ」
店にやってきた身なりの良い騎士が、レジで手際よく調理パンを袋に詰め、同時に公共料金の納付処理を行う店員を鼻で笑った。
店員は、男の暴言を無視して、0.1秒も無駄にしない動きで次々とタスクをこなしていく。揚げ物の油加減を確認し、品出しのタイミングを計算し、背後で鳴った納品車の音に即座に反応する。
2. 誰も真似できない「戦場」
司令室からその様子を見ていたケニーは、ソラリスに静かに語りかけた。
「……あの騎士に、一度レジを代わらせてみたいものだ。三分も持たずにパニックになるだろうよ」
コンビニの仕事は、単なる労働ではない。
秒単位で変わる客列を捌きながら、バックヤードでの調理を完璧にこなし、店内の清掃状態に目を配り、かつ不条理なクレームにも笑顔で応える。これは高度な「並列思考」と、強靭な「精神力」を必要とする、極めてプロフェッショナルな職務なのだ。
3. 「尊厳」の重み
「オーナー、なぜ人々は彼らを馬鹿にするのでしょうか? これほどまでに街を支えているのに」
ソラリスの問いに、ケニーは窓の外、冷え込む早朝に黙々と清掃をこなす店員の背中を見つめた。
「……自分にできないことを、簡単そうに見せているプロだからさ。連中は、店員の『技術』を当たり前だと思っている。だが、この店員たちが一日いなくなるだけで、王都の物流も食生活も、あっという間に麻痺することを知らないんだ」
4. 49歳の「盾」
ケニーは店に降りていった。先ほどの騎士が、まだ不遜な態度で店員を急かしている。
ケニーは騎士の隣に立ち、その眼光だけで相手を黙らせた。
「……騎士殿。この店員がこなしているのは、あなたの戦場よりも遥かに複雑な『平穏』の維持だ。彼らがこの場所を守っているからこそ、あなたは安心してそのパンを口にできる。彼らを馬鹿にすることは、この街の命脈を侮辱することと同じだ」
ケニーは、店員の肩を叩き、レジの交代を告げた。
「……お前たちの仕事は、俺が誰よりも高く評価している。誇りを持て。ここは、誰にでもできる場所じゃない。選ばれたお前たちだからこそ回っている戦場なんだ」




