第73話:通行料の相場(握られた金貨と、汚れた検問)
深夜三時。帝国側から王国へと戻るトラックが、冷たい石造りの検問所で足を止められた。
1. 執拗な「仕事ぶり」
「おい、降りろ。全車両、精密検査だ。最近、物流に紛れて怪しい動きがあるという報告が入っている」
帝国の憲兵が、眠気を隠そうともせず、乱暴にトラックのドアを叩く。
ハンドルを握るドライバーのロジャーは、バックミラーで荷台の「隠しコンテナ」を確認した。中には、第402号店で回収した老人の孫娘が、息を潜めて震えている。
2. 「話し合い」の準備
王国の司令室でモニターを注視していたケニーは、マイク越しにドライバーへ短く命じた。
「ロジャー、予定通りだ。……相手は夜勤で苛立っている。一番『効く』やつを渡せ」
「了解です、オーナー。……お手の物ですよ」
ロジャーは、わざとらしく溜息をつきながら、運転席から降りた。その手には、伝票の束に隠すようにして、ずっしりと重い小さな革袋が握られていた。
3. 「旦那、許してくださいよ」
「おい、何をしている。早く荷台を開けろ」
憲兵のリーダーが歩み寄る。ロジャーは、わざと腰を低くし、困り果てたような顔で擦り寄った。
「いやあ、旦那、許してくださいよ。中にはただの廃棄予定の魔導石が詰まってましてね。開けるとなると、面倒な報告書が必要になるんですわ……。ほら、旦那も夜通しの仕事で、喉も乾いてるでしょう?」
ロジャーは、伝票を差し出すふりをして、その革袋を憲兵の掌に滑り込ませた。
金貨が触れ合う、小さく、けれど確かな音がした。
4. 49歳の静かな決断
憲兵は、手の中で袋の重さを確かめると、一瞬で顔つきを変えた。
「……ふん。廃棄物か。確かに、そんなゴミをいちいち調べてる暇はないな。……おい、異常なしだ! 通せ!」
ゲートが開き、トラックがゆっくりと動き出す。
司令室でそれを見ていたケニーは、冷めたコーヒーを口にし、苦い顔で呟いた。
「……結局、金か」
正義や大義名分よりも、目の前の金貨。その「汚れた現実」が、今は何よりも頼もしかった。




