第62話:隣人の距離(見守るレジと、届かない処方箋)
600店舗のネットワークは、時に一人の孤独を、あまりに鮮明に映し出してしまう。
1. 笑顔の裏の「影」
「あら、おはよう。今日もいつものコーヒーをちょうだい」
そう言って上品に微笑むご婦人は、この店の最古参の常連客だった。店員たちとも家族のように親しく、彼女の来店は店の癒やしでもあった。
だが、ある時から彼女の足取りが重くなり、顔色に土色が混じり始めた。診断は「ジスト」という厄介な病だった。
2. 家族より近い「他人」
彼女には遠方に住む息子と娘がいる。だが、何度連絡しても「仕事が」「生活が」と理由をつけ、病院に付き添うことすらしない。
見かねた店員の一人が、休日に彼女を病院へ連れて行き、手術の際も病室に付き添った。一度は良くなり、店員と手を取り合って喜んだ。
だが、そこまでだった。退院後も、本来寄り添うべき家族は現れなかった。
3. 治療の放棄と、店員の祈り
「もういいのよ。あの子たちに迷惑はかけられないし、一人で通うのも疲れちゃった」
彼女は、必要な治療をやめてしまった。再発の兆候は、レジに立つ店員の目には明らかだった。
「おばあちゃん、また病院に行こう? 私が一緒に行くから」
店員は何度も誘う。だが、彼女は静かに首を振るだけだ。
ケニーは、その店員がバックヤードで涙を拭っているのを見てしまった。助けたい、生きてほしい。けれど、自分たちは「店員」であり、彼女の人生のすべてを背負うことはできない。
4. コンビニの「境界線」
ケニーは店員に声をかける代わりに、温かいお茶を渡した。
「……お前が寄り添った時間は、彼女にとって家族がくれるはずだった何よりも尊いものだ。自分を責めるな」
司令室に戻ったケニーは、再びペンを握る。
「600店舗の明かりは、誰かを救うためのものだ。だが、その明かりが消えた後の暗闇を、俺たちはどうすればいい……」




