第63話:レジ越しの空腹(三つの笑顔と、届かない手のひら)
600店舗の巨大な網を動かすケニーにとって、最も重い情報は、数字ではなく「目の前の一人の沈黙」だった。
1. 四時の小さな常連客
夜明け前、いつも決まった時間にやってくる少年がいる。
「ありがとうございました。お仕事頑張ってください」
泥のついた小銭で安い菓子を一つ買い、律儀に頭を下げて去っていく。たまに連れてくる幼い妹二人の服は汚れ、その頬は日に日に削げていくのが分かった。
ケニーは、彼らが「食事」ではなく「空腹を紛らわせるための菓子」しか買わないことに、言葉にできない不安を感じていた。
2. 握りしめられた無垢な手
ある日の午前四時。少年はおらず、幼い妹二人だけが店に現れた。
「……おなかが、すいたの」
差し出された小さな手には、お金は一枚も握られていなかった。
ケニーは迷わず、店内で一番温かく、栄養のあるおにぎりとスープを差し出した。
「いいんだよ。これは、おじさんからのサービスだ。……お母さんはどうしたんだい?」
「お母さんは、寝てる。……起こすと、すっごく怒るから」
3. 背中を見送ることしかできない無力
ケニーは心配で、二人の手を引いて家まで送っていった。
辿り着いたのは、酒の瓶が転がり、生活の匂いがしない荒れ果てた家屋だった。
「バイバイ、おじちゃん」
そう言って、二人は暗い家の中へと消えていった。ケニーは立ち尽くした。
親を起こせば子供が怒鳴られる。かといって、無理に連れ出す権限も、その後の生活を保障する準備も、今の自分にはない。
49歳の大人が、600店舗のオーナーが、目の前の幼い二人に「明日もまたおいで」と約束することすら躊躇してしまう。その不甲斐なさが、ケニーの胸を鋭く刺した。
4. コンビニの「真価」を問う夜
司令室に戻ったケニーは、一人デスクを叩いた。
「……600店舗あっても、目の前の子供一人満足に救えないのか」
彼は、ソラリスに告げる。
「ソラリス、新しい『キャンペーン』を始める。……建前は何でもいい。『試食』でも『規格外品の処分』でもいい。とにかく深夜四時に店に来た子供には、必ず温かい食事を出す。……経費はすべて俺が持つ。二度と、あんな顔で子供を帰すな」




