第56話:招き猫(迷い込んだ幸運と、六百分の一の癒やし)
帝国のある地方都市、街道沿いの小さな店舗。その自動ドアが「ピンポーン」と開いた時、入ってきたのは客ではなかった。
1. 泥だらけの来店者
「あら……? あなた、どこから来たの?」
店員が驚いて声を上げた。そこにいたのは、片方の耳が少し欠けた、泥だらけの三毛猫だった。
どこから迷い込んだのか、あるいは捨てられたのか。猫は当たり前のような顔でレジカウンターの下に潜り込み、そのまま丸くなって寝息を立て始めた。
2. コンビニの「看板娘」
追い出そうとするスタッフを制したのは、視察に訪れていたケニーだった。
「いいじゃないか。……腹が減っているんだろう。廃棄予定のジャーキーでも少し分けてやってくれ」
それ以来、その猫はその店に居座るようになった。名前はいつの間にか「ミケ」になり、店の備品である段ボール箱を特等席にして、来店する客を眺めるのが日課になった。
3. 殺伐とした世界に、小さなおまけ
「ミケちゃん、今日も可愛いわね」
「おいミケ、今日も景気はどうだ?」
猫がいる。ただそれだけのことで、買い物に来る客たちの表情が和らぐ。
情報戦の渦中にあるケニーにとっても、魔導端末で送られてくる「ミケがレジで寝ている写真」は、どんなビッグデータよりも心を癒やすものだった。
4. 600店舗の灯火の下で
特別な奇跡は起きない。魔力があるわけでもない。
ただ、24時間開いている店の隅っこで、一匹の猫が安心して眠っている。
その光景こそが、ケニーがこの異世界で作りたかった「平和」の象徴のようにも見えた。




