表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

141/161

第141話:海賊港の闇市場(安売りの代償と、安全安心の定価)

「明日晴れるかな」と夜空に歌ったあの日から数週間後。ケニーの元に、聖教国の最果てに位置する巨大な港町から「出店要請」が舞い込んだ。

しかし、現地を視察に訪れたケニーとショウを待っていたのは、教団の威光すら届かない「海賊たち」が支配する無法地帯の闇市場だった。

1. 搾取の構造

「……ひどい有様ですね、オーナー」

ショウが顔をしかめながら、港の市場を見渡した。

そこでは、海賊たちが日用品や海産物を独占していた。逆らえない弱者には法外な値段をふっかけ、逆に海賊の機嫌次第では、信じられないほどの「安売り(叩き売り)」が行われている。

「あの魚、タダみたいな値段で売られていますよ。客にとっては嬉しいかもしれませんが……」

ショウの言葉を、ケニーは鋭い声で遮った。

「表面だけを見るな、ショウ。異常な安売りというものは、必ず裏で誰かが泣いている。……見てみろ、あそこで海賊に獲物を買い叩かれている漁師の顔を」

ケニーの視線の先では、命がけで魚を獲ってきた地元の漁師が、海賊に脅され、原価にも満たないはした金で海の幸を奪い取られていた。

2. 「安売り」のツケは誰が払うのか

「いいか。商品を安く売るということは、最終的に農家さんや漁師さんといった『生産者』に負担を強いるということだ。どこかに無理が来ている商売は、品質が落ち、やがて誰も物を作れなくなる。……この街は今、その悪循環で死にかけている」

ケニーは、港の一角に確保した空き店舗で、静かに、しかし確固たる意志を持って開店準備を進めた。

「棚に並べる全商品に『値札プライスタグ』を貼れ。絶対に、一円たりとも値引きはしない」

3. 安全と安心という名の「定価」

第803支店「港町店」がオープンした日、物珍しさから数人の海賊が冷やかしにやってきた。

「おい店主! このパンと酒、銅貨1枚で置いていきな。俺たち海賊衆へのみかじめ料だと思えば安いもんだろ?」

凄む海賊に対し、ケニーはレジカウンターから一歩も引かず、商品の横にある小さな札を指差した。

「うちの店は『定価販売』です。パンは銅貨3枚、酒は銀貨1枚。それ以上でも、それ以下でもありません」

「あぁん? 俺たちを誰だと思って……」

「この値段は、私が農家や漁師から『正当な価格』で買い取った証です」

ケニーの低い声が、店内に響き渡った。

「生産者の生活を守り、質の良いものを安定して棚に並べる。買う側も、法外な値段をふっかけられる恐怖なしに買い物ができる。うちの『定価』は、全員の『安全と安心』の上に成り立っているんです。……あなた方に不当に安売りする理由は、一つもない」

ケニーのブレない、岩のような威圧感に、海賊は毒気を抜かれたように舌打ちし、しぶしぶ正規の値段を払って店を出ていった。

4. 塗り替えられる経済圏

その日から、港町の流れは劇的に変わった。

漁師や近隣の農家は、海賊に買い叩かれる闇市場を避け、適正価格で全量買い取ってくれるケニーの店へ直接品物を卸すようになった。

そして住人たちも、「誰が買っても同じ値段で、しかも品質が良い」という安全と安心を求めて、明るいコンビニへと足を運ぶようになった。

「……オーナー、闇市場の客足が完全に止まりました。品物も集まらず、海賊の親分が頭を抱えているそうです」

ショウの報告を聞きながら、ケニーはバックルームで発注端末を叩いていた。

「生産者が笑い、客が安心して買える。それが本来の商売の姿だ。……暴力で相場を歪める奴らに、24時間のインフラは破れないさ」

安売りの熱狂ではなく、適正価格という名の「誠実さ」で街を制圧した49歳の経営者。その背中は、異世界の荒波の前でも決して揺らぐことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ