表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

142/161

第142話:荒波の契約(契約漁師と、信頼の履歴)

港町店(第803支店)のオープンから数日。ついに「その男」が姿を現した。

この海域を実質的に支配する海賊団の頭目、バルガス。彫りの深い顔に刻まれた無数の傷跡と、潮焼けした肌。一見するとヤクザそのものの威圧感を放つ大男が、数人の部下を引き連れてレジカウンターのケニーの前に立った。

1. 荒くれ者の「商談」

「……あんたが、俺たちのシマで勝手に『値札』を振り回してる店主か」

低く地響きのような声。店内の一瞬で凍りついた空気を、ケニーは49歳の冷静さで受け流した。

「勝手ではありません。地元の漁師さんたちと、適正な商売をしているだけですよ、バルガスさん」

「適正だと? おかげで俺たちの市場は干上がりそうだ。……落とし前をどうつけるつもりだ?」

バルガスの拳がカウンターに置かれる。だが、ケニーはその拳を見つめながら、静かに一枚の書面を差し出した。

「落とし前ではなく、『提案』です。……あんたたちの抱えている漁師を、すべて私の『専属契約漁師』にしませんか?」

2. 「ヤクザもの」を「プロ」に変える

バルガスが鼻で笑う。「契約? 俺たちの野郎どもは海じゃ最強だが、陸のルールなんて知らねえぞ。ヤクザものに何ができるってんだ」

「だからこそです。荒っぽいが腕はいい。そんな彼らが命がけで獲った魚が、闇市場で二束三文に買い叩かれるのは、彼らの誇りを傷つける行為だと思いませんか?」

ケニーはバルガスの瞳を真っ直ぐに見据えた。

「私と契約すれば、全量を適正な定価で買い取ります。ただし、条件があります。『誰が、いつ、どこで獲った魚か』をすべて記録し、品質を保証してもらう。……いわば、信頼の履歴トレーサビリティです」

3. トレーサビリティという名の付加価値

「履歴だと? そんな面倒なこと……」

「それが『ブランド』になるんです、バルガスさん。コンビニの棚に並ぶ魚に、『バルガス一党の誰々が獲った、今朝一番の獲物』と明記する。客は、命を預けられる男たちが獲った魚だからこそ、安心して定価で買う。……あんたたちは、ただの海賊から、この国の食卓を支える『海のプロフェッショナル』に変わるんだ」

ケニーの言葉に、バルガスの眼光が変わった。

単なる金の話ではない。自分たちの存在が社会に「認められる」という、男たちのプライドに火をつけたのだ。

4. 荒波の上のWin-Win

「……フン。履歴、か。面白えじゃねえか。俺の野郎どもに、字の書き方から教えなきゃならねえな」

バルガスは豪快に笑い、ケニーの差し出した書面に、無骨な手で署名した。

これこそが、ケニーが描いたWin-Winの形。

海賊たちは安定した収入と社会的地位を得る。コンビニは、産地直送の「鮮度」と「安全性」という最強の武器を手に入れる。

生産者が誰であるかが見える安心。それは、かつての闇市場には決して存在しなかった「光」だった。

「……オーナー、本当にやっちゃいましたね。海賊を味方につけるなんて」

ショウが呆れたように、しかし尊敬の眼差しで呟く。

ケニーは、署名された契約書を大切にファイルに収め、49歳の不敵な笑みを浮かべた。

「……うまくいく、と言っただろう。……よし、さっそく『産地直送・バルガス便』のPOPを作れ。今日から、この港の魚が一番の目玉商品だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ