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第137話:不夜の祈祷(365日の重圧と、折れない心)

聖教国の第801支店。揚げたての「聖女様まんじゅう」が飛ぶように売れ、活気溢れる店内の喧騒を離れ、ケニーは深夜のバックルームで一人、冷めたコーヒーを啜っていた。

1. 24時間365日の「祈り」

表向きは順風満帆。しかし、ケニーの心の中では、言いようのない疲労が蠢き始めていた。

「……24時間、365日。一度も明かりを消さない」

それは単なる営業方針ではない。暗闇の中にポツンと灯るコンビニの看板は、この世界の人々にとって「あそこに行けば何とかなる」という安心の象徴だ。人々が明日も世界が続くと信じて生活するための、ケニーなりの「祈り」そのものだった。

だが、その祈りを維持するためのコストは、経営者の精神をじりじりと削っていく。

2. 泥濘ぬかるみの中の現実

表に出ないトラブルは、山のようにある。

「オーナー、第32区の店長がまた売上を誤魔化しています」「酔客が店員に暴言を吐き、シフトが崩壊しました」「新人が三日で音信不通になりました」……。

魔導通信機から流れてくるのは、人間関係の軋み、ルールを守らない客への対応、従業員の不正。800を超える店舗を抱えれば、毎分毎秒、どこかで泥臭い問題が起きている。

「……綺麗事だけじゃ、インフラは守れないな」

49歳の肉体は、かつて前世で倒れた時の記憶を疼かせる。無理をすれば、またあの暗闇に引きずり込まれる。効率の良い「休み」が必要なのは分かっている。だが、現場の悲鳴がそれを許さない。

3. それでも前を向く理由

ふとモニターを見ると、深夜の店内に一人の老人が入り、安心したように「聖女様まんじゅう」を一つ買っていく姿が映った。

その老人の、ホッとしたような背中。

それを見た瞬間、ケニーの胸の奥のおりが、わずかに軽くなった。

(……これだ。この一瞬の安らぎを守るために、俺は明かりを灯し続けているんだ)

4. 魔法の呪文

ケニーは深く息を吐き、鏡に映る自分の疲れた顔を見つめた。

白髪が混じり始めた髪、刻まれた皺。それは、異世界で「徳」を積み重ねてきた証でもある。

「……大丈夫だ。まだ、やれる」

心臓の鼓動を整えるように、ケニーは小さく、しかし確かな力を持って呟いた。

「うまくいく。……うまくいく。……絶対に、うまくいく」

それは自分自身にかけた、どんな魔導士の術よりも強力な、経営者のための呪文。

明日もまた、24時間の戦いが始まる。ケニーは重い腰を上げ、再び戦場である「売り場」へと戻っていった。

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