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第135話:聖女の帳簿(お布施の裏側と、透明な経営)

聖教国の第801支店は、オープンから一週間で「奇跡の休息所」として、一部の巡礼者や修道士の間で噂になり始めていた。派手な看板はなくとも、入り口から漏れる琥珀色の柔らかな光と、ショウの穏やかな接客が、戒律に縛られた人々の心を解かしていたのだ。

1. 聖女の「お気に入り」

「……この『素焼きのクッキー』、とても優しい味がしますね」

夜更けにお忍びで訪れた第一聖女は、イートインコーナーの隅で、ショウが淹れた温かいハーブティーと共に、質素な菓子を楽しんでいた。

「それはオーナーが、地元の修道院で作られた余剰の小麦を買い取って作ったものです。無駄をなくし、誰かの助けになる……それがうちのやり方ですから」

ショウの言葉に、聖女は深く感銘を受けた様子で頷いた。

2. 暴かれた「聖なる搾取」

その時、ケニーがわざとらしく、司祭から要求された「ロザリオ」や「お土産物」の納品伝票をカウンターに置いた。

「……オーナー、また司祭様から追加のお布施(上乗せ分)の督促が来ています。これでは、巡礼者の方々に安く商品を提供することが難しくなります」

ショウの言葉は、背後にいた聖女の耳に届くよう計算された「演出」だった。

聖女は目を見開き、伝票を手に取った。

「……これは、どういうことですか? 教団への寄付は、商売の利益を圧迫しない範囲で行われるべきもの。これほど高額な『特別供出金』など、私は聞き及んでいません」

彼女の瞳には、慈愛ではなく、不正を許さぬ厳格な光が宿っていた。

3. 24時間の「監査」

翌日、司祭がいつものように「追加の金」をせびりに店へ現れた。

「ケニー殿、昨日の分はどうなったかな? 神への感謝が足りないようだが……」

ニヤつく司祭の前に立ちはだかったのは、ケニーではなく、フードを脱ぎ捨てた第一聖女だった。

「司祭、あなたの言う『神への感謝』とは、私服を肥やすための金銭のことですか?」

司祭は腰を抜かし、その場に崩れ落ちた。聖教国において、聖女の言葉は神託に等しい。ケニーは傍らで、49歳の老獪な笑みを隠しながら、冷徹に告げた。

「司祭様、うちの店は24時間、あらゆる動きを記録しています。あなたがこれまで受け取った『お布施』の記録も、すべてケニーバンクのデータとして王宮へ送信済みです」

4. 聖域の「正常化」

司祭は即座に解任され、不正に徴収されていた金は、巡礼者のための宿泊施設の整備基金へと回されることになった。

「ケニー殿、ショウ殿。あなた方のおかげで、この国のよどみが一つ消えました。心から感謝します」

聖女は深々と頭を下げた。

その後、第801支店は教団公認の「公式巡礼休憩所」として認定され、お布施の免除どころか、国からの補助金まで出る異例の店舗となった。

ショウは、前世では考えられなかった「国家レベルの浄化」に携わった興奮で顔を赤らめていた。

「……良かったな、ショウ。これでこの店も、本当の意味で『地域のインフラ』になった」

ケニーは、新しく書き換えられた帳簿を眺め、独り言を呟いた。

「……さて。これでまた一つ、とてつもなく大きな『徳』を積めたな。しかも今回は、聖女様を味方につけるという、最高の経営判断付きだ」

聖教国の静かな夜。石造りのコンビニは、腐敗を払い、純粋な祈りと安らぎを届ける「真の聖域」へと生まれ変わっていた。

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